では、過去の経験を正敏さんの葬儀ではどう生かすことができたのでしょうか?

 葬儀社の選定については、これまでの2度の経験から、「地元で活動している葬儀社」「事前に内容を検討しておく」ことの必要性を実感。余命を宣告された時点で、最寄り駅近くにオープンした会館に足を運び、すでに葬儀社と内容を詰めていました。あらかじめ決めていたことは次のとおり。

●病床が長かったので、故人の関係者には亡くなったことは事後報告でいいと思う。ただ子どもは忌引きをとるので、もしかしたら関係者が弔問にくる可能性がある。火葬のみというわけにはいかないので、家族葬でこぢんまりとやりたい。親戚は約15名、参列者はおよそ15名を想定。

●祭壇は最低ランクで30万円セット。

●香典返しは当日返しで2000円の海苔セット。

●通夜ぶるまい(弔問客にふるまう食事やお酒)は不要。

一番の悩みは「旅立ちの衣装」

 実は、通夜ぶるまいについては当初、この地域でよく出される一般的な江戸前寿司やオードブルなどを見積もりに加えていました。しかし「保留にさせてください」と、見積もり後に変更した項目のひとつです。

 正敏さんはいわゆる「グルメ」な人。通夜ぶるまいの席で用意されるものが美味しくないというわけではないけれど、特に子どもたちは画一的な通夜ぶるまいの料理に価値を感じていませんでした。

「せっかくだから、お父さんの好きだったものでお別れしたい。私が買ってくる」という長女の意見で、通夜当日、長女は車で買い出しに。その「お父さんの好きだったもの」というのは某所の「うな重」でした。長女は往復2時間かけて、親戚の分と参列者分、さらに予備の数を試算し、テイクアウト用に包んでもらいました。

 子どもたちの間で、一番悩んだのが「旅立ちの衣装」でした。菩提寺はなく、義父母は宗旨・宗派不問の墓地に納骨。そのため本家の菩提寺と同じ浄土真宗で儀式は行うことにしたのですが、宗派の教義上、基本的には死装束といわれる白装束は必要ありませんでした。