「宿題」という言葉さえ知らない子

 わたしが「宿題で、詩を書いてきてくださいね」と言ったとき、「先生、シュクダイってなんですか」と聞いてきたのはBくんだ。親に育児放棄され、小学校にも行かせてもらえなかったから、「宿題」という言葉さえ知らなかったのだ。そのBくんの作品。

 

 『刑務所はいいところだ』

 

 刑務所は いいところだ

 屋根のあるところで 眠れる

 三度三度 ごはんが食べられる

 お風呂にまで 入れてもらえる

 刑務所は なんて いいところなんだろう

『写真集 美しい刑務所 明治の名煉瓦建築奈良少年刑務所』(西日本出版社)より受刑者居室・独居用
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 タイトルに思わず笑ってしまったが、朗読を聞いているうちに、胸が痛くなってきた。いったいどんな暮らしをしてきたのか。ご飯さえろくに食べさせてもらえなかったので、コンビニの廃棄弁当で命をつないできたという。さまざまに苦しい目に遭ってきた教室の仲間たちも、さすがに、この詩に賛同する子はいなかった。

「ぼくは、やっぱり家族といっしょに暮らしたいです」

「シャバで、ダチといっしょに遊んでいるほうが、いいです」

「外に出て仕事をして、早く一人前になりたいです」

 なかには「わたくしは以前、医療少年院におりましたが、そちらのほうがここよりずっと待遇がよかったです」なんて言いだす子さえいて、誰ひとりとして共感しない。

 わたしは心配になって、Bくんの顔をそっと見た。否定されたと思って傷ついてはいないだろうか、と思ったのだ。ところが、Bくんは満面の笑みを浮かべているではないか。感想を聞くと、「みんなに、いろいろ言ってもらえて、うれしかったです」という。

 ああ、ろくに言葉もかけてもらえない人生だったのかと、さらに胸が痛んだ。すると、彼がこう付け足したので、わたしはびっくりしてしまった。

いろんな感じ方、いろんな意見があるんだなあって思って、勉強になりました

 なんというしっかりした、そして謙虚な言葉だろう。違う意見の人を否定しない。そこから学ぼうとする。こんなふうに受けとめられるなんて、まるで、金子みすゞの詩『私と小鳥と鈴と』の「みんなちがって みんないい」のようではないか。それを、小学校にも行っていないBくんが、自分の頭でちゃんと考えて、本気で「勉強になりました」と言っているのだ。どうして、こんないい子が、犯罪を犯してしまったのだろう──。

 イランの女子更生施設に取材したドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』 が、11月2日(土)より岩波ホールほか全国で公開される。解説を書かせてもらったが、ここの少女たちも同じだった。国が違い、性別が違っても、犯罪に追い詰められた陰には、必ず深い悲しみの物語がある。ただ憤り「極刑を」と声をあげるのではなく、その背景に思いをはせてほしい。

 彼らは、さまざまな意味で「弱者」だ。弱いから犯罪にまで追い詰められてしまった。だからこそ、どうしたら弱者である彼らが救われるか、犯罪を防ぐためにどんな支援が必要なのか、真剣に考えていきたい。

『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』(ロクリン社)著=受刑者、編=寮美千子
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『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』
文中の詩を収録した詩集。ベテラン教官に聞いた「子どもを追い詰めない育て方」の付録つき

『少女は夜明けに夢をみる』
(C)OskoueiFilmProduction
11月2日(土)より東京・岩波ホールほか、全国順次公開
PROFILE
●寮 美千子(りょう・みちこ)●作家。東京生まれ。 2005年の泉鏡花文学賞受賞を機に翌年、奈良に転居。2007年から奈良少年刑務所で、夫の松永洋介とともに「社会性涵養プログラム」の講師として詩の教室を担当。その成果を『空が青いから白をえらんだのです 
奈良少年刑務所詩集』(新潮文庫)と、続編『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』(ロクリン社)として上梓(じょうし)。『写真集 美しい刑務所 明治の名煉瓦建築 奈良少年刑務所』(西日本出版社)の編集と文を担当。絵本『奈良監獄物語 若かった明治日本が夢みたもの』(小学館)発売中。ノンフィクション『あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』(西日本出版社)が大きな話題になっている。