災害に弱い水道がもたらす深刻な被害

 今年9月の台風19号は全国各地に甚大な被害をもたらした。国土交通省によると、豪雨で川の堤防が壊れる決壊は7県、71河川、140か所で発生。川の水が堤防を越える越水は16都県の、のべ285河川で発生した。

 同時に数多くの浄水場が浸水し、断水が発生した。福島県いわき市では平浄水場の運転停止により4万5400戸が断水。宮城県丸森町では町内の浄水場の取水機能が停止、水道管も各所で破損し、全域で断水となった。完全に断水が解消されたのは10月末である。このとき発覚したのが危ない場所にある浄水場だ。浸水想定地域にある浄水場3152のうち、2552施設で防水対策がなかったのである。

水道管の老朽化が進めば被害は拡大しかねない
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 今後も、このクラスの台風がたびたびやってくるだろう。気象研究所のシミュレーションでは、今世紀末に世界の平均気温が3度から4度ほど上がるというシナリオで温暖化が進んだ場合、日本の南の太平洋に限ってみると中心気圧920ヘクトパスカルほどの猛烈な台風の発生・通過は、現在10年間で平均3つ程度なのに対して、今世紀末には10年間で5つほどに増えるとされる。

 加えて、海面上昇そのものが指数関数的に上昇するとの予測が現実のものとなれば、被害はさらに拡大する。気候変動という課題にどう向き合うかが急務だ。

 今回、冠水した浄水場は流域内で水が集まりやすい場所にあり、今後も冠水する可能性がある。台風19号は「これまでにない」「特別なもの」ではない。地球温暖化で海水温が上がり台風はエネルギーを蓄える。温暖化は大気の流れを緩やかにし台風の移動スピードは遅くなる。それは長期間にわたって豪雨が降り続くことを意味する。つまり、これまで沖縄や九州にやってきていた「強くて遅い台風」が、全国的にやってくると考えたほうがいい。

 台風19号の際、治水の面で「流域単位で考えるべき」という意見が出ていたが、水道事業も自然の水を相手にする仕事なので、流域という視点をもったほうが合理的だ。

 山に降った雨は、尾根で分かれ、低い所へと流れ、川に集約され、海へ出る。この流域という視点で水道事業を見直すと、さまざまなものが見えてくる。森林が荒廃すれば貯水機能は弱まり、渇水や水害のリスクは高まる。水田の減少は地下水の減少につながる。同じ流域に住む人は同じ水を使い、ときには洪水や渇水、水質汚染などの影響をともに受ける。

 現在は水源地の荒廃が問題になっている。森林が放置されたり、皆伐されたりすれば、降水時の原水が濁ってしまう程度も頻度も上がる。想定を超えた雨が降る時代に備え、水源林の整備は大事だ。東京都、横浜市などでは水道事業者が主体的に管理しているが、ほかにも複数の自治体が同様の施策を行おうとしている。土地所有のコストが発生するが、長期スパンで見ると水質の安定化につながると考えられる。

 また森林には、地球温暖化につながる二酸化炭素を吸収する能力がある。今後、排出権市場が整備されれば所有する森林が収入源になる可能性がある。このほか洪水抑止の能力もある。

 流域という視点で水循環を健全にしていく人材と部署が自治体内に必要だ。「水循環健全部」のようなものだ。もちろん、流域境と自治体境は異なるので、流域単位の管理が理想であるが、そうした組織づくりには時間がかかり、豪雨災害はそれをまたない。だからまずは自治体内に「水循環健全部」をつくり、流域連携が基本であることを理念として掲げる。

 水道事業の広域化で人知を集積してダウンサイジングを図り、逆に、数軒しか家がないような集落では独立型の水道を考えるなどして、地域や環境に合ったさまざまな対策を講じていかなければ水道事業は継続できない。さらには多発する豪雨災害への対策、荒廃した森林の保全など、水道の枠を越えて総合的に水行政を担う人材も必要だ。

「水循環健全部」を設立し、その中に水道課、下水道課、林業課などができるとよい。流域固有の水問題を総合的に扱う人材を養成していくことも急務だ。

 これらの施策のためには資金が不可欠。拡大する軍事費を防災にあてることが最大の安全保障である。

(執筆/橋本淳司)


橋本淳司  ◎水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表。出版社勤務を経て現職。水問題やその解決方法を調査、発信している。『水道民営化で水はどうなるのか』(岩波ブックレット)ほか著書多数