地球温暖化という新たなリスク

 昭和時代の水道普及期と現在では、水道の課題が違う。そこを見誤らないことが重要だ。昭和では人口増加、需要増加、水質汚染などへの対応が急務だった。一方、現在は人口減少、需要減少、気候変動が課題。現在の水道事業には、後者に対応する能力が十分にない。これが市民生活を脅かしている。

 インフラ更新は、設備老朽化とともに定期的にやってくる。例えば1970年に設備投資のヤマがあれば、2020年、2070年ごろに更新投資のヤマがくる(施設の材質などが同じ場合)。一方、人口減少すれば、過去につくったインフラの稼働率は低くなる。現在の水道施設の利用率は全国平均で6割ほど。人口減少に直面する地方ほど施設のダウンサイジング(小規模化)が急務だ。

 水道普及期と違い、現在は地域ごとに最適な水道をつくっていく必要がある。岩手県北上市、花巻市、紫波町の3市町は、水道事業を共同で行う、岩手中部水道企業団を設立した('14 年4月1日)。この3市町では人口減少が進み、今後の給水人口は大幅に減少、水道料金は増加すると予測されていた。

 企業団が設立されてから5年。'18年4月までに、34あった浄水場を29に減らし('25年までに21に減らす予定)、取水施設は36から32に減らした(同・23に減らす予定)。その結果、約76億円の経費が削減され、浄水場の稼働率も5割から8割まで上昇した。

 エネルギーという視点も大切だ。上下水道には、多くのエネルギーが使用されている。台風15号が直撃し、千葉県では甚大な被害が発生した。電柱が倒れ、電線はズタズタ、電力喪失した。台風による大規模停電は県内で約64万戸、断水は約8万9000戸にのぼった。

 水道事業にかかる電気を減らすという発想は、経営的にも災害対策としても重要だ。固定的にかかる電力量を節減できれば、水道経営は効率化できる。低い場所にある水源から取水し高所の浄水場まで導水するのではなく、伏流水やコミュニティー内の地下水などの水源に注目し、高低差を活かして水を運べば、電力は減らせる。

 山間にある小さな水道施設は水道行政からはお荷物のように見られているが、小水力発電の拠点として活用することができる。地下水は地域の水源として貴重だが、温度が年間でほぼ一定なので夏は冷熱源、冬は温熱源として利用できる。

 水道法では資産台帳整備が義務づけられた。台帳は今後の事業計画策定、広域化計画、ダウンサイジングに欠かせないものだが、はたして、すべての自治体が作成できるのか。前述したとおり、水道現場を担う職員の削減が加速、そのため水道事業から専門性の高い技術が失われつつある。

 例えば、水道管からの水漏れをふさぐ技術にもばらつきがある。水道水は浄水場でつくられ水道管を通って各家庭に送られ、水道メーターを通過してはじめてお金になる。ところが、水道管がボロボロの自治体では、浄水場でつくった水の半分以上が水道管から漏れている。これはパン屋が100個パンを焼いたが、店に並べようとしたらいつのまにか50個になっているようなもの。経営改善は無理だ。

 北海道羅臼町には、この8年間、水道職員が1人しかいなかった。漏水対応などを地元業者の協力のもと1人で行ってきた。プライベートの旅行などでも道外へは出なかったそうだ。しかし、日々の業務に追われ、台帳を作成する余力はない。

 台帳がつくられていない自治体は羅臼町だけではない。厚労省の調査では全国の約4割の自治体が正確な図面をもっておらず、小規模事業者はこの割合が多くなる。民間のコンサルタントの活用が促されているが、事業が赤字で費用の捻出が難しいケースもある。基盤強化の第一歩を踏み出すには人と金の手当てが必要だ。小さな事業者に自助努力を求めるだけでは、基盤強化はかけ声だけになるだろう。