リアル感を求めて

 では、どのようにして消しゴムのアイデアがひらめくのだろう。岩沢さんに聞くと、かなり現場主義のようだ。

 日曜日には、街に繰り出し、何が売れているかを見て歩く。近場では、つくばエクスプレス線の南流山や柏エリア。東京にも行くという。例えば浅草のサンリオショップや銀座の博品館などだ。“いいな”“参考になるな”と思う商品は必ず買って帰るようにしているが、苦い思い出もあるようだ。

「可愛い包装をした商品があったのでレジに持っていったら、“それ、ティッシュペーパーじゃありません”と言われたんです。生理用品だったんだけど、私はこれが欲しいとまじめに言っても、店長を呼ばれてしまいました。きっとヘンなおじさんだと思われたんでしょう。そのときジャンパーを着ていたんです。帰って娘に言われました。“背広を着ていったほうがいいよ”と。以来ずっと背広姿で見て歩くようになりました

『株式会社イワコー』創業者 岩沢善和さん 撮影/齋藤周造
『株式会社イワコー』創業者 岩沢善和さん 撮影/齋藤周造
【写真】岩沢さんが作った、可愛い消しゴムたち

 1人で行くのを躊躇(ちゅうちょ)するような場所には、娘や孫に助けを求めた。新宿に同行した長女の美華さん(54)は言う。

「ファンシーな雑貨屋を何軒も回りましたね。じっくり見て“この色、可愛いな”とか“このケース可愛いな”と言いながら、マスカラなどの化粧品を買っちゃうんです(笑)。もちろん支払うのは私なんですけどね」

 孫と一緒に原宿の竹下通りにも何回も行っているのだという。当然だが、パンダを作るときは上野動物園に通い、富士山を企画した際には、実際にふもとまで足を運んだ。

「富士山を近くで見ると全体のシルエットがわからないことに気づいてね。少し後悔しました(笑)」

 企画を固めていくときにはリアル感を大切にする。

 美華さんは、マクドナルドのハンバーガーを買ってくるように頼まれた日のことをよく覚えている。いくつか買って帰ると、表面についているゴマの数を数えさせられた。

「おそらく、ハンバーガーの大きさとゴマのバランスをつかみたかったのだと思いますが、実際のものを常に観察する姿勢は一貫していますね」

 こうした姿勢が魅力的な商品作りにつながるのだろう。

 例えば鯛焼きには、皮の間からあんこがはみ出している様子が表現されている。それによって思わずゴックンとなる。形状にひと手間ふた手間かける。それはコストに跳ね返るのだが、その手間を惜しまない。職人肌の岩沢さんらしいところだ。

 寿司は孫のダメ出しで改良が加えられた。

「最初、まな板にお寿司をのっけたのを作ったんですけど、孫に指摘されたんです。“おじいちゃんの作るお寿司はおかしい。いまのお寿司はぐるぐる回っているよ”と。それで回転寿司の形にしました」

 最近は、注文の際にタッチパネルの端末が使われることを知り、タッチパネルも作った。善は急げ、と複数人の社員とともに1日に何軒も実際のお店を梯子したという。