三人称で視野を広げる『イリイスト転職ノート』

「いろんな視点で物事を見てみよう」とはよく聞くアドバイスですが、そう簡単にはいかないのが人間の難しさです。やすやすと複数の視点を取り入れられるなら、適職探しも苦労しません。

 そこで、まず使えるのが、『イリイスト転職ノート』という手法です。イリイストはラテン語の「ille」(「三人称」の意味)からきた言葉で、古代ローマの政治家ユリウス・カエサルが、『ガリア戦記』のなかで自らの行動を「彼は町を攻囲したが」と解説したりなど、自分のことをあたかも他人ごとのように記した修辞法にちなんでいます。

『イリイスト転職ノート』の要点も同じで、自分の行動を「三人称」として記録するのが最大のポイント。そもそもはウォータールー大学がバイアス解除のプロトコルとして提唱したもので、実証研究では300人を対象に効果を確かめています。

 研究チームは、まず被験者に「その日に行った意思決定のなかで、もっとも悩んだものを教えてください」と伝え、それぞれに「仕事を辞めるか考えた」や「上司とケンカをした」などの日常のトラブルを思い出させました。

 続いて、その「日常の悩み」について三人称の視点を使いながら日記上で説明するように指示し、「彼は仕事を辞めるかどうかに悩み、転職サイトでよりよい条件の職場を探した」といったように、自分が行った意思決定の流れを、まるで他人ごとのように書かせたそうです。ひとつの日記にかけた時間は15分で、作業は1日1回のペースで行われました。

 4週間後、被験者に複数のテストを行ったところ、『イリイスト転職ノート』を続けた被験者に目覚ましい変化が確認されます。悩みを三人称で書き記したグループは他人の視点で物事を考えるのがうまくなり、多角的な観点からベストの対策を導き出せるようになったのです。

 論文の主筆であるイゴール・グロスマンは、「自分の意思決定を三人称で想像するだけでバイアスを簡単に消せることがわかった。この方法を使えば、私たちはより賢明に問題を対処できるだろう」と言います。適職を選ぶ際は、ぜひ自分が日常的に行った決断を三人称で記録してみてください。