世界中でステイホームが叫ばれる中、国連女性機関は4月6日に声明を出し、「女性に対する暴力という隠れたパンデミック(世界的大流行)が増加している」と警告した。一方、日本では海外のような都市封鎖まではしていないが、外出自粛が強く求められ、家庭内の緊張が高まっている。

経済的DVもある

 コロナ問題によって、DV被害の支援現場はどう変わったのだろうか。前出の森さんは、「影響を感じ始めたのは2月ごろ」と振り返る。

「これまでは家庭内別居をしてなんとかなっていたとしても、最近はテレワークによって夫やパートナーが長時間、家にいるため、言葉の暴力の被害に遭う場面が多くなっています」

 ただし、当事者はDV被害に遭ったという意識をなかなか持てない。持つようになったとしても、時間がかかる。

「暴力を受けるのは自分に問題があるせいだ、と思ってしまうからです。加害者が精神的に支配しているのです。そのため当事者は、被害に遭ってもすぐには相談しません。悩んで、悩んで、ようやく連絡するのです」(森さん)

 DVや虐待被害者の治療を行う『こころとからだ・光の花クリニック』の白川美也子院長(精神科医)は、DVなどの複雑なトラウマを抱えた場合、感情の調整が困難になり、自分を否定的にとらえやすくなる。結果、人間関係を作る力が弱まると指摘する。

「被害者は、加害者と一緒にいる状況に適応せざるをえません。人に相談できなくなるのもトラウマによる症状です。抵抗も逃げることもできないと、加害者に従ってしまいます」(白川院長)

 佳苗さんや実知子さんも、行政や民間の支援団体に相談していない。加害者から逃げることよりも、学校が休校になったり、給食がないことのほうが深刻に感じたりする。

「収入があっても、夫が生活費を渡さないなどの経済的DVがあり、使えるお金がなくて、生活が苦しいこともよくあります」(森さん、以下同)

 DVから逃れても、今度は経済的不安が襲いかかる。コロナの影響で就職活動は難しい。家を出るときに持ってきたお金があると「貯金」とみなされ、生活保護を頼ることもできない。

「ある被害女性は、少しでも稼ぎたいため、自ら手を上げてパート先へ出社していると言っていました。会ではマスクや商品券などを集めて渡していますが、フードバンクを作る計画もしています」

「DV相談プラス」は専門の職員に匿名で相談できる。電話相談は0120-279-889へ。メール、チャットでの相談はホームページhttps://soudanplus.jpの専用フォームから受け付けている。日祝日も対応。電話・メール相談:24時間受け付け。相談時間はチャット相談:12時~22時
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 地方での状況は一層深刻と言える。コロナ以前に、支援体制の格差が大きい。例えば、婦人保護施設や民間シェルターは、東京や大阪などの大都市に集中する一方、青森県、富山県、奈良県には1つもない。さらに感染防止のため施設が閉鎖され、面談を中止する動きが相次ぐ。

 そもそもDV被害者は、加害者から逃げようと思っても、先の生活をイメージできないことが少なくない。前出の種部医師が言う。

「私たちのところには、被害を受けても、加害男性から積極的に逃げたいという相談はありません。不眠や体調不良のためにクリニックを訪れています。それらの原因が夫の暴力にあるとわかっていても、逃げたあとの生活をイメージできず、家を出ようという気持ちにならないのです」

 コロナ禍の緊急対策として、1人10万円の特別給付金が出されることになったが、世帯主へ家族の分をまとめて支給する方法だったことから、「DV被害者に届かないおそれがある」と批判を集めた。総務省はDVを理由に避難している場合、給付金を避難先で受け取ることが可能としているものの、懸念は残る。

「(支援団体の証明書が発行されるなどして)DV被害者と認定されたら配慮されますが、被害に遭いながら同居していると難しい」(種部医師)

 また、加害者が家にいる状況では、気軽に相談窓口に連絡しにくい。内閣府は「DV相談プラス」をスタートさせた。電話やメールだけでなく、履歴がわかりにくいようにチャット相談も行っている。

 感染拡大を防ぎ、命を守るために「ステイホーム」が求められる中で、DV被害は拡大し女性たちの命が脅かされている。そのことにも目を向けなければならない。


取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺やいじめ、虐待などを中心に執筆。東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。新著『学校が子どもを殺すとき』(論創社)が5月29日に発売予定