基本は「三現主義」

 先ほど、お金を払ってしまう店とそうでないところがあると話しましたが、その違いは、事前にクレーム客への対応基準を考えているか否かが大きいといえます。

 店側の対応基準(ポリシー)を明確にしておき、場当たり的な形でのクレーム対応はせず、「企業として『できること・できないこと』」を事前に決めておく(同書)ということは、とても重要なのです。

 たとえば、コロナの影響で、いまテイクアウトをするお客さんは多いかと思います。不手際があって「トッピングなどの一部の商品が入っていなかった」場合、客側から「今すぐに、もうひとつ、商品を持ってこい」と言われるかもしれません。

 そのとき、「はい、わかりました!」と即座に答えて、お客の要求どおりにすぐ商品を持っていかず、事前にお店側で決めていたルールにのっとった対応をします。

「ご足労ですが、再度、お店にレシートと商品をご持参いただき、確認させてください」

 このようにクレーム対応として大事なことは、相手の話を一方的に聞くだけでなく、「どのような不具合があるのか、現物を確認できない状態では、申し出には対応しない」ということ。「現場」で「現物」を「現実」に基づいて判断する「三現主義」を基本とします(同書)。もちろん、相手のクレーム内容の状況によっては、対応ポリシーにのっとって、その後に配達という手段も考えられます。

 昨今は、「SNSに書き込むよ」とさらしをちらつかせて、脅すケースもありますが、クレームが受け入れられないものであれば、対応ポリシーに照らして合わせて毅然とした態度で接します。過剰要求には答える必要はなく、場合によっては、脅迫や業務妨害などの法的な対応も可能となることも知っておくとよいでしょう。

 特に、この過剰要求には答えない。これがクレーム詐欺の被害に遭わないために大事なことなのです。
 
 詐欺を行う者たちも、お店側がどういう対応をしているのか見て、要求を釣り上げてきます。もしクレームの対応基準があり、毅然とした態度を取られて難しいと思えば、引きさがりますし、逆に対応に隙ありとみられてしまえば、そこにつけ入れられて、だまされてしまうことになるのです。

 おそらく話を受けた時点では、ブラックとは言い切れないグレークレームの状況であるでしょうから、それに対する対処をしっかりとすることで、詐欺も防げるのです。

多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。