《別に君を求めてないけど    隣にいられると思い出す 君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ》

 このフレーズで「ああ、あの曲ね」となったあなたは時代の波に乗れている。知らない人は、今すぐ聴けばいい。そう、23歳の若手アーティスト・瑛人が歌う『香水』のサビの一節である。

 元カノとの切なくもエモい距離感を歌った同曲がリリースされたのは昨年4月のこと。それが1年の時を経ていきなりブレイク。若者たちに『TikTok』でカバーされ拡散、あらゆる音楽チャートで1位を獲得。YouTubeの公式ミュージックビデオが約5900万回再生(7月18日現在)されるほどの“シンデレラソング”となった。その影響力は芸能界にも波及し、香取慎吾やチョコレートプラネットの長田庄平、オリエンタルラジオの藤森慎吾らが“歌ってみた”と自身のYouTubeチャンネルでカバーするなど、大の大人があやかりまくっているほどである。

 すでに多くの音楽専門家が言及しているが、この曲の画期的な注目ポイントはサビに出てくる「ドルチェ&ガッバーナ」というフレーズが独特の譜割りになっていることだ。

 確かに聴いてみると、

「ドール↑チェ↓アーン、ド↑ガッバーァ↑ナァ〜…↑↑の↓」

 といった感じの抑揚がとても心地いい。一度聴いたら耳から離れない。日本人の何割がこのフレーズを風呂場で口ずさんだか統計をとってほしいくらいだ。とにかく、この『香水』のヒットぶりはすさまじく、あの『ミュージックステーション』への出演も決定している。

ドルチェ&ガッバーナの香水。公式サイトによると“地中海的要素に優れた革新性をミックス”させた香りとのこと(公式サイトより)

──このままいけば、今年の年末の『NHK紅白歌合戦』への出場も夢ではないのではないか……? というか、高齢者がお茶の間でフリーズするような若年アーティストらが続々と登場する近年の紅白の傾向をかんがみるに、むしろ瑛人は“最有力”のアーティストだといっていい。

 しかし、彼がこの『香水』をひっさげて紅白の舞台に立つには、大きな壁が立ちはだかっている。その壁というのが、皮肉なことに「ドルチェ&ガッバーナ」の歌詞それ自体なのだ。

特定の商品名は“宣伝になる”ということで……

 NHKの放送をみて、ときたま違和感を感じる方もいるかもしれないが、“公共放送”をうたっている同局では、『特定の「企業名」や「商品名」を使ってはいけない』というルールが存在する。

『NHK放送ガイドライン 2020』の『放送法第83条』には《協会は、他人の営業に関する広告の放送をしてはならない》と明記されている。国民の受信料によって成り立っている公共の電波であるがゆえに、宣伝ととらえられないよう、商品名を使わずに遠回しな表現(ex.ウォシュレット→温水洗浄便座)に変換し放送してきたわけだ。

『香水』という楽曲がもはやCMソングとしてそのまま使われてもおかしくないほどのクオリティーと人を引き込む歌詞を備えているだけに、『ドルガバ』からすれば、NHKをぶっ壊したい気持ちでいっぱいであろうが、これが公共放送というもの。しかし、このガイドラインによれば《広告のためにするものでないと認められる場合において》“例外”も存在するらしい。少し長くなるが、その一部を抜粋したい。

放送やインターネットサービスで企業名などを使う場合には、
・本質的に必要なのか、その他の表現に置き換えることはできないのか
・視聴者の理解を助けることになるか
・ライバル企業などから見て、著しく不公平でないか
・構成や演出上やむを得ないか
 といった点を判断の基準にする。
ただし、その場合でも、企業名などの出し方や出す回数を工夫するなど、宣伝・広告と受け取られることのないようにする

『香水』には4分13秒のうち「ドルチェ&ガッバーナの香水」というワードが4回登場する。 しかも、このフレーズが曲のキモとなっているかつ、前述のような絶妙な譜割りがヒットの基盤となっているだけに、簡単に「イタリア有名メーカーの香水のせいだよ〜」に変えるわけにはいかなさそうだ。

 このNHKの“商品名を使ってはいけない問題”はニュースやバラエティー番組だけでなく、音楽番組も同様で、これまで「商品名をカット」「歌詞を変更」するといった処置を施してきた歴史があった──。