イケメン僧侶にいそいそと

 母は、ひと言で言えば男好き、かもしれませんねぇ。毎日、托鉢の、顔立ちのきれいなお坊さんが見えるんですよ。チリン、チリンと音がすると、もう、いそいそと、財布から小銭を出して。パーッと渡しに行く。戻ってきてから、「いい男なんだわぁ」って。

 父親は、戦前は士官学校を出て、少尉までなった軍人だったんです。戦後は、不動産業をやっていました。これまた、いい男なんですよ。母親の方ほうが、惚れたんだと思います。

 僕には、姉2人と、兄2人がいるんです。父親の実子というのは、僕だけなんです。

 それと、顔も見たことない妹がひとり。この妹は、父親が外でつくった子なんですね。ある日、父親が、告白しちゃったんですよ。夫婦ゲンカをしているのを見ました。

 中学に上がるか上がらないかのころでしたね。

「洋ちゃん、離婚したら、どっちについていく?」

 って聞かれて。

「お母さんについていったって、お金がないし。お父さんは、お金があるから。お父さんについていく」

 といったら、ポロポロ……。

 大学は東京に出たんですけど。家から少しでも離れたい、というだけのことで。母親は、誰かまわず、グチをいうわけですよ。

 年端もいかない息子をつかまえて、父親の浮気のグチをいわれても。こっちは、困っちゃって。自分さえ楽になれば、人のことなんて考えないところがあったかなぁ……。