今はただ、笑いあえたらいいな

ぼそっと 私も両親にとって初めての子なんです。最初の子というのは、よくも悪くも親の未熟さにさらされるものかもしれませんね。私は心理学や精神分析を学んで、自己分析を重ねました。その結果、自分がひきこもるのはやはり親に原因があるとわかったので、家族会議を開こうと父親に手紙を書いた。ところが実家に戻ってみると、母親は自分に非はない、虐待などあるわけがないと完全に私の言うことを否認しました。父も弟も母に従って耳を貸さない。あげく「2度とわれわれ家族に近寄るな」と弟から電話がかかってきて、私は追放され、もう20年以上、没交渉です。

平田 それはつらかったですね。私も今はなるべく息子と直接会わないようにしています。距離を置いたほうがお互いに冷静でいられるから。ただ、今年、息子の誕生日に心をこめてカードと現金を送ったんです。でも送り返されてきました。今さらこんなことをしてと思っているんでしょうね。私は関係をやり直すには遅くないと思っているけど、息子は違う。そこをどう埋めていけばいいのか……。

ぼそっと タイミングも大事なのでしょうね。今、私は親との対話を望んでいますが、若いころはどうせ言いくるめられるから、と逃げていた。

平田 以前は息子の同級生と比べて落ち込んでいました。ただ、『親の会』に入って勉強するうち、世間を気にするのはやめようと思えたんです。仕事をしなくても家庭がなくても、息子なりにがんばっている。それでいいかな、と。

ぼそっと 息子さんも他人と自分を比べて落ち込んでいると思いますよ。私がいまだにそうですから。

平田 息子は結局、せっかく入った大学も中退しました。オレの時間を返せと言われて切ない思いもしたけど、今はただ、笑いあえたらいいな、と。望むことはそれだけです。

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 親は親なりに愛情をかけて育てた。だがそれは、子が欲しがっている愛情ではなかった。心配だから干渉する。子からすると支配としか思えない。そんな親子関係は多いのではないかと思う。その歪みがずっと続き、子が精神を病んでいくところまでいくのか、いつしか適切な距離をとってお互いをあきらめるかのように落ち着いていくのか。その違いはどこにあるのだろう。ぼそっとさんも平田さんも今も苦しんでいるのだ。どちらも悪くないのに……。それが親子関係のむずかしいところなのかもしれない。


かめやま・さなえ 1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、また、女性や子どもの貧困、熊本地震など、幅広くノンフィクションを執筆