強迫症状が悪化し、無理やり入院させたが

平田 うちの息子はぼそっとさんより荒れていましたね。大学受験に失敗して予備校に通い始めたんですが、9月から様子がおかしくなった。ある日、「予備校の帰りにホームレスの人とすれ違ったから」と帰宅後、粘着テープで身体をコロコロしていたんです。日がたつにつれ、そのコロコロの時間が長くなっていく。見ている私もイライラが募っていって……。

ぼそっと それも強迫症状のひとつだったんでしょう、私も経験があります。

平田 2か月後に、今度は手洗いが始まりました。夕飯を食べたいから椅子に座るけど、手を洗わないと気がすまない。戻ってきて箸を持つとまた手を洗いに行く。自分の部屋は神聖な場所なのに自分は汚染されているから部屋に入れないと、リビングで寝る。

 無理やり病院に連れて行って入院させました。ところが病院の中では強迫症状が出ず、1か月足らずで退院。帰宅後は症状が悪化、昼夜逆転し、和室の壁によりかかってひざをかかえて何かに怯えている。薬をやめるといらつきがひどくなる。悪循環でしたね。手は血だらけになるくらい洗っているのに、お風呂には入れない。真夏の暑いときにお風呂に入らないから彼が寝ているリビングの床には、身体の跡が残っているんです。

ぼそっと 私は抑圧が大きくて反抗することさえ知らなかったのかもしれません。唯一、親に逆らったのが有名企業に決まっていた内定を断ったこと。大学を卒業するときになって、ようやく「このままだと一生、母の敷いたレールの上を歩く人生になる。それどころかこんな立派な大人になれましたと虐待してきた母に感謝しなければならなくなる」と思ったからです。そのころはすでに身体が重くて布団から出られない「がちこもり」でしたね。

殺すか殺されるかという状態に

平田 うちはその後、病院からの提案で、息子だけ近くのウイークリーマンションで生活し始めました。すぐに友達と映画を見に行ったので、功を奏したかと思っていたら映画を見ている途中で急に不安にかられたと帰ってきた。部屋にこもる彼に、私が食事を運びました。しばらくして自宅に戻って通院するようになりましたが、数か月すると動けなくなる。10か月ひきこもっていたかと思うと、急にカウンセリングを受けたりもする。エネルギーがピタリとなくなる感じなんです。

 手洗いが落ち着くと、怒りの感情が増大して暴力がひどくなりました。私が肋骨を骨折したこともあります。あるとき、夕飯を作ってからピアノのレッスンをして戻ってきたら、おかずが減っていた。軽く、「またつまみ食いしたでしょ」と言ったら、「なんでいつもオレだと思うんだ」とキレて。リビングのテーブルを投げて、私も投げられて床に頭を打ちつけて。負けるものかと応戦したんですが、壁の角に頭をぶつけそうになって、これはまずいと110番しました。殺すか殺されるかという状態でしたね。ふたりで運ばれた病院のスタッフから「自分の命を大切にしてください」と言われたとき、彼は「僕は死にません。殺してやりたいやつがひとりいるけど」と私を見た。そんなに恨まれているのかとびっくりしました。私はすべてよかれと思って、息子のためにいろいろしてきたのに……。

ぼそっと 私の母もそう言うと思いますよ。息子のためによかれと思ってやったって。でも私の場合に限っては、「嘘つくな、すべて自分の虚栄心を満たすためだろう」と言いたい。

平田 家族カウンセリングを受けたとき、息子が私を『毒親』と言ったんです。初めての子だからわからないなりに必死に育てたのに、彼にはすべてがプレッシャーであり負荷だったと初めて気づきました。それで「私の育て方が間違っていた、悪かった」と謝ったんです。でも時間は戻らない。「これからいい方向にいけるよう一緒にがんばっていこう」と言ったんですが、彼は「一生許さない。一生オレのめんどうをみろよ、親なんだから」と。

 息子は今、アパートでカウンセラーや支援センターの人に支えられながら生活しています。