夜になると霊を感じで怖い

 1年が過ぎた2012年3月11日。この日から住職は、手作りで地蔵を作りはじめた。それは亡くなった人の供養でもあった。

「最初は自分の供養をするためでもありました。そのことが知られると、いろんな人から被災地のために、と地蔵が送られてくるようになったんです。これは、グリーフワーク(人との離別時に受ける悲しみと立ち直りのプロセス)になるんだな、と思いました。地蔵が欲しいという人もおり、送ったりもしました。自分だけで作りきれないので、みんなで作ろうとなったんです」 

 しばらくすると、幽霊を見たと言ってくる人もいた。

「特に復興に携わる人が多かったですね。石巻市の海岸で、夜になると霊的なものを感じ、『怖い』と言っていた人がいました。もちろん、実際にいるかどうかはわかりません。いずれにせよ、『それがその人の苦しみだから、供養をすることが必要だ』とアドバイスをしました。震災をきっかけに、普段見えないものを見えるようになった人は多かったですね」

 東日本大震災では1万5899人が死亡、2529人が行方不明となった。いまだに遺体が見つからず、「曖昧な死」を感じざるを得ない人も多い。

「ご家族がまだ見つからない、ある高齢の女性に数珠を作りました。そうすると、『海の底には穴があって、お父さんはそこから上がってこれない』というのです。死を受け入れるプロセスは、例えば、位牌を作ったり、宗教的、習俗的なことをすることで進みます。あるとき、『お墓を作ってみたい』と言うのです。死を受け入れ始めたと思うとうれしくなりました」

 別の女性は、死を受け入れる中で、遺体が見つかった。

「夫と子ども二人の遺体が見つかっていなかったんですが、市役所に行って、死亡届にハンコを押すことを決めたようです。でも『私、子どもを殺してないですか?』『遠くの島でいい人が拾い上げて育てているかもしれない。それなのに、ハンコを押してしまった』というのです。でも、1年後、明るい声で電話がありました。『骨のかけらが見つかりました。二人の子どもの骨です。やっと家族が揃いました』と教えてくれました」

 また、死者が自分に憑依をすると訴えてきた女性もいた。「死にたい」と訴えてきたので話を聞いてみると、水に関する事故で亡くなった人が憑依しやすいというのだ。例えば、子どもを迎えに行く途中で津波にのまれて亡くなったという父親の霊、子どもを二人亡くして、自殺をした父親の霊、亡くなったことがわかっていない4歳の男の子の霊……。

「危機的な状況が起こると心の状態は敏感になり、また感度も高くなります。起こったことにどう向き合うか。そこに心理学をあてはめようとしても仕方ありません。物語を聞き取り、その中で解決の糸口を見つけていくしかありませんでした。メカニズムはわかりませんし、例えわかったとしても、それが即、解決には導かれるとは限りません。そんなことがあるの?と科学者は言います。憑依を訴える女性が『私は精神病ですか?』と聞いてきましたが、『精神病にはしないからら大丈夫だよ』と言いました。憑依をどう科学的に解釈するのか、ではないのです」