まだ見つけたいタイミングではない人も

 しかし、どんなに写真をきれいに蘇らせたとしても、時間がたつと返却が難しくなる。そこで、さらに探しやすくするために被災写真をスキャンすることにした。写真や物品のデータをリスト化して、そのファイルを市内の美容室などに置いた。また、写真を載せた広報誌を市内に配布することで、返却率は上がったという。

今年から卒業証書などの賞状や、ランドセル、位牌なども五十音順にリスト化しました。すると返却が多くなりました。市内ではまだコミュニティーがしっかりしているので、見つけた人が心当たりがある人に伝えてくれることもあります。“ニーズがない”との調査結果が出ていますが、リスト化したものを生活圏に置くことで、持ち主を見つけ出すことはできます。最近ではプリクラをデジタル化したら160枚返却されました」(同前)

岩手県陸前高田市「一般社団法人三陸アーカイブ減災センター」写真はデジタル化して保管
【写真】震災後、自衛隊や住民によって集められた泥だらけの思い出の品々

 ただ、被災者の心は複雑だ。探そうと思うタイミングは人それぞれであり、まだ「見るのがつらい」と感じている人もいる。

保管場所に行きたいと思っても気が重くて来られない人、また今が“見つけたいタイミング”ではない人もいます。写真を見る喜びよりも、悲しみのほうが勝ってしまうのです。10年たっても悲しみは癒えるものではありません。陸前高田に来ることで、当時のことを思い出してしまうため、探しにこれない人もいます。ですから私たちとしては、その人の探したいタイミングで探せるようにしたい」(同前)

 '21年3月で震災10年。復興交付金が出なくなり、市の返却事業としては終了する。しかし同センターでは事業の継続について市側と協議を重ねている。今後、毎月の寄付を受け付けるマンスリーサポーターを募集し、独自の予算で返却事業を続け、今後も引き続き震災前の陸前高田市の風景写真や集合写真を集める。

「震災後は大きく街が変貌し、学校が統廃合になったり、駅舎も変わりました。被災者の抱えるストレスは当然ですが、被災していない人でもストレスを抱え、全体で傷を抱えています。震災前の写真を集めることで、地域の人と共有し、コミュニティーの形成の一助になればと思っています」

 被災地、被災した人々、そしてお迎えを待ち続ける思い出の品々にとって、10年という区切りはただの数字にすぎない。 


取材・文/渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)ほか著書多数。