歯周病の細菌は
別の病気を引き起こすトリガーに

「歯科治療もあと回しにされがちです。でも治療を中断し、放置すれば歯を失います」

 そう注意喚起するのは、栃内秀啓歯科医師。

 コロナ禍での受診控えに限らず、“痛くない”という理由で治療が必要な虫歯を放置する人は多い。

「進行すると虫歯の細菌が歯を支えている骨を溶かしてしまう。土台がもたなくなれば抜歯が必要になるリスクも高まる」(栃内歯科医師、以下同)

 歯周病の細菌による感染症にも気をつけたい。この細菌は別の病気を引き起こすトリガーとなるおそれがある。

「歯が直接の原因とされているとは言い切れませんが、病気の入り口となっている可能性は高いんです。代表的なものでいえば糖尿病、心疾患、認知症などがあります」

 まずは糖尿病。歯周病の悪化とともに血糖値の上昇が起こるという。

「糖尿病情報センターの報告によると、歯周病菌は歯ぐきの毛細血管から体内に侵入します。血管の中に入った細菌は 体内のインスリンを効きにくくします。これによって糖尿病が悪化します」

 次に心疾患。歯周病菌が歯を支える歯肉から血管内に入り、炎症を起こす。この炎症が血管そのものを硬化させたり、心臓の血管に血栓ができれば心疾患につながる。

 そして認知症だ。実は歯と認知症の因果関係は解明されていないことが多い。だが、噛む能力が減少することで脳の機能が衰えて寝たきりになる『廃用性萎縮』が起こることと、前述の細菌感染による炎症が原因ともいわれている。

「歯を失い、好きなものを食べられなくなれば食事の楽しみがなくなります。その結果、食が細くなり、十分な栄養がとれなくなる。健康寿命が短くなります」

 ほかにも、歯がないことで人前に出るのが恥ずかしくなり、自宅に引きこもりがちになることも。外出しなければ身体の機能や認知機能はさらに衰えていく。

 栃内歯科医師によると、

「歯周病の治療をおろそかにしたことで免疫力が下がり、肝心のコロナに対して抵抗力が落ちる危険性があります。コロナを恐れるあまり、受診しなかったことで逆にかかりやすくなるんです」

 それに口の中の状態が1度悪化してしまうと、治療に費用と時間がかかる。歯科疾患は進行すると元に戻らない。

 さらに注意したいのが総入れ歯の人だ。コロナ禍の受診控えで、定期的な検診やメンテナンスを怠り、サイズが合わない入れ歯を無理に使っていることも危険なのだ。

 入れ歯に汚れが付着したままだと口腔内で細菌が増殖。おまけに食事中に入れ歯がはずれやすくなり、食べ物をうまく飲み込めなくなると誤嚥をしやすくなる。誤嚥したときに細菌が肺に入れば、『誤嚥性肺炎』を起こし、命を落とすこともあるのだ。

「総入れ歯の人は自分の歯で食事をする人よりも誤嚥性肺炎のリスクが2倍以上にもなるというデータもあります。自分だけは大丈夫、という考えが自らを危険に晒すことにもなります。少しでも健康寿命を延ばしたいのなら、合わない入れ歯は作り直して汚れもしっかり取りましょう」