「中華料理店・幸楽での、泉ピン子さん演じる嫁の五月と、赤木春江さん演じる姑・キミとの衝突シーンがとても印象的ですよね。橋田ドラマには、五月のように苦労している女性が多く登場します。

 でも彼女たちは、ただ我慢しているだけじゃないんです。五月は優しく辛抱強い性格ですが、姑に向かって、ときにはズバリと言い返したりもする。ここぞというときの女性の強さが描かれているところが、橋田ドラマの魅力のひとつです」(成田さん、以下同)

2010年、20周年を迎えた『渡鬼』は、シリーズ最後となる第10作でフィナーレに
【写真】橋田壽賀子さんの自宅にお邪魔してみると…

 確かに、岡倉夫妻の妻・節子(故・山岡久乃さん)や、5人姉妹の長女である弥生(長山藍子)も、家族のために我慢を重ねつつも、ときには家出など思い切った行動に出ている。このような、母や妻の小さな「反乱」によって、家族の大切さに気づくという場面も多かった。

橋田さん自身も姑と…

 橋田さん自身は、1966年、41歳で結婚。お相手はTBSプロデューサーの岩崎嘉一氏だ。

姑であるお義母さまがしょっちゅう家に来て、橋田さんにいろいろと小言を言うことがあったそうです。よかれと思ってベランダに布団を干していたら、『布団は西日に当てるもんじゃにゃあ』なんて怒られたり(笑)。そういったご自身の体験が、ドラマによりリアリティーを与えていたんでしょうね」

 あまりにリアリティーがありすぎて、五月をいじめるキミの娘たちには、「芝居とわかっていてもひどい!」といった視聴者の声も寄せられた。

「キミの2人娘、久子と邦子を、それぞれ沢田雅美さんと東てる美さんが演じています。この2人の意地悪っぷりは、個人的にいちばん印象深いですね(笑)。東てる美さんは、『渡鬼』の収録が終わるとよく、100円ショップで爆買いしてストレスを発散してから帰宅していたとか。役柄とはいえ、底意地が悪い小姑を演じるのはそれだけ大変だったのだと思います」

 しかし橋田さんはどのキャラクターにも愛情を持ち、常々「悪人を描いているつもりはない」と言っていたそう。

橋田さんは“登場人物に悪い人はいないんです。みんながそれぞれ自分の立場で言っているだけ”とおっしゃっていました。なにか問題が起こったとき、姑の立場で考えると姑の言い分は間違ってないし、また嫁の立場から考えると、嫁の言い分も正しいんですよね」

 ドラマのタイトルも強烈だが、橋田さんはサインを頼まれると、色紙に「渡る世間に鬼はなし」と書いていたという。

「プロデューサーの石井ふく子さんから聞いたお話ですが、『相手を鬼と思ったら自分も鬼。だから気をつけましょう』という橋田さんの思いが、タイトルに込められているとのことでした」

 訃報をうけ、弥生の夫・野田良を演じた前田吟が、橋田さんが『渡鬼』の最新話の脚本にとりかかっており、7月に撮影すると聞いていた、と語った。令和を生きる渡鬼ファミリーの物語を、ぜひ見てみたかった。