「従来から私たちは医療現場での人手不足を訴えてきました。そうした中で、今現在のコロナ禍で医療従事者は医療崩壊が起きかけている地域への対応、ホテル療養者への対応、ワクチン接種など多方面の対応に駆り出されています。そこへさらにオリンピックへの派遣まで求められています。

 しかし、先も見えない中、状況次第では一般国民や医療従事者にさらなる犠牲を払いかねないオリンピック開催にこだわることには抵抗を感じます。政府は開催に伴う経済効果を期待しているのでしょうが、現下の情勢でその期待どおりの効果が得られるのかを考えると、クエスチョンマークがいくつも頭に浮かんでしまいます」

「安全」宣言も、やまない感染拡大

五輪組織委の橋本聖子会長は「安全安心な大会準備は進んでいる」と強調するが、感染拡大がおさまらないまま開催される可能性も
【写真】本当に安全? 聖火リレーキャラバン隊の“密”な状況

 また、実際に開催した場合、感染状況にどの程度影響を与えるのか、その場合のシミュレーションや必要となる医療体制に関しても不透明な点が多いことも問題視する。

海外からの選手団を選手村に隔離できたとして、現時点で検討されている一部観客を入れることが現実になれば、東京都内だけでなく他の地域から東京都に向かう人の流れが生まれます。

 高齢者のワクチン接種ですら十分といえない中で、このような人の流れがあれば感染拡大と医療現場への負荷増大につながりかねないと危惧しています。しかしながら、観客を入れる場合にどのような感染対策を行うのかも現時点では不明です」

 オリンピック関係入国者の水際対応でも現場は頭を悩ませている。新型コロナの医療事情に詳しいある医師は、入念な対策がなければ、オリンピック開催が首都圏のコロナ対応病床を逼迫させると警告する。

「入国時の新型コロナの抗原検査で陽性となった外国人などは、厚生労働省管轄の検疫所が用意したホテルに隔離され、重症化した場合はホテル近隣の医療機関に入院させることになります。

 多くの外国人は成田か羽田から入国するわけですから、水際で見つかった外国人の新型コロナ患者の入院が必要になれば、東京都や千葉県が本来住民のために用意している新型コロナ対応ベッドを使わざるをえません。その意味で入国者数などから医療需要をあらかじめ算出して対応を準備しておかないと、いざというときに大混乱になってしまいます

 こうした関係者の懸念をよそに、開会式まで2か月を切った今、オリンピック開催を唱える関係者からは、医療現場や国民の不安に十分に応えるだけの対策と説明はほとんどなされていない。

IOCのトーマス・バッハ会長(写真左)の「犠牲を払わないといけない」発言が国内で波紋を呼んでいる(写真は'20年11月)

 そんな矢先、IOCのトーマス・バッハ会長の「オリンピック開催のために、われわれはいくらかの犠牲を払わなければいけない」との発言が波紋を呼んでいる。IOCは「日本の人々に対してではない」と火消しに躍起だが、それはあまりにも的はずれ。

 今、関係者があらためて知るべきなのは、相次ぐ緊急事態宣言で日常生活がままならない中、オリンピックだけが「開催ありき」で突き進むことに納得できない日本国民が少なくないという現実だ。

取材・文/村上和巳●ジャーナリスト。宮城県出身。医療専門紙記者を経てフリーに。医療、災害、国際紛争などの取材執筆に取り組んでいる。『二人に一人がガンになる』(マイナビ新書)ほか著書多数。