日本テレビがADの呼称を廃止するというニュースが話題になっていて、業界内がざわついている。

ADの見えざる闇

 ADとは“アシスタントディレクター”の略で、プロデューサーやディレクターと同じくテレビやラジオの番組制作に携わるスタッフのことだ。そのなかでは一番下のポジションにあたる。テレビ関係者の間で長年親しまれてきたこの呼称を廃止するのは、彼らの境遇が大きく関係している。

 ADはディレクターの仕事を補佐し、ロケハンやリサーチ、VTRを製作するなど番組製作過程で必要な業務に従事する。だが実際にはコンビニに買い出しに行ったり、会議用の資料を作ったりコピーしたり、演者にコーヒーを出したりなど、雑務のほうが多いこともよく知られている。1週間家に帰っていない、スタッフルームや廊下のソファで寝ている、なども“ADあるある”としてよく知られていることであろう。『士農工商、犬猫AD』などと、置かれた立場の低さを自虐的に語るテレビマンもいたほどだ。こうなると、ADとはもはやブラックな職種のイメージしかない。

 ということで呼び名がYD(ヤングディレクター)に変わるのだという。この刷新には、歓迎する声がある一方で、呼称だけ変えても業務内容それ自体が変わらなければ無意味だという向きもある。“働き方改革”が叫ばれるようになって番組制作スタッフの労働環境はだいぶ変わったというが、いまだ、見えざる闇が存在する──。

「おい、AD!」と呼ばれていた時代の人たちが

 一口にADといっても、「局員のAD」から「テレビ局制作の番組に制作会社から派遣されているAD」、「番組制作を一括で請け負っている制作会社のAD」がいて、同じ立場でも三者の労働環境は異なる。現場の声を聞いてみた。

「局員、または局に派遣されたADは、コンプライアンスに厳しくなった局のプロデューサーの下で仕事をするので、労働時間などもきっちりと管理されている。徹夜で雑用ばかりやらされたりすることも少なくなりました。問題なのは、番組の制作を丸ごと任されていたり、番組の1コーナーを担当発注された制作会社に勤務するADです。

 彼らは“局員の目の届かない”ところで働いており、納期までにVTRを完成させなければならないときは、業務時間をオーバーしたとて業務終了、とはいかない。納期を守れなければ、別の制作会社に仕事が回されるようになるといいます。局員もそういった現状を知りながら目を瞑っているといいます。誰かがオーバーワークしなければ現場は回りませんから」(前出・情報番組ディレクター)

民放テレビ局にも改革の波が

 これが下請け、孫請けになってくるとADの負担は更に大きくなってくるのだという。呼称だけ変えても、彼らの労働環境は変わることはない。なぜ、このような荒唐無稽ともとれる変更がとられるようになったのか。

ADの呼び方を変えるというのは局の上層部の50歳代以上の人たちが言いはじめたことです。会社から労働環境改善のために何か提案はないか、とでも言われて思いついたのでしょう。彼らがADだったころの苦い思い出がまだ残っているのでは。今ではそんなことはありませんが、当時は局員でも個人名ではなく“おい、AD!”と呼ばれることが多く、本当に雑用ばかり言いつけられていましたから」(日本テレビ関係者)

 “AD廃止”は日本テレビ以外の局でも実施されるようだが、なんと『SD(サブディレクター)』や『ND(ネクストディレクター)』などとその呼び方は局によって異なるそうだ。当然、複数の局と仕事をしている制作会社も多く、現場は混乱を招くことは必至であろう。とある“YD”はこのように憤りを表明する。

日本テレビは呼称の変更の決定を発表後、今になってようやく現場スタッフたちに、『呼称の変更についてどう思っているか・不満を感じている者はいるか』などの聞き取り調査を実施しています。それって、変更する前にやるべきことですよね?」(制作会社関係者)

 上層部がこのような考え方である以上、根本は何も変わらないのかもしれない。

<芸能ジャーナリスト・佐々木博之> ◎元フライデー記者。現在も週刊誌等で取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中