母、栗原はるみのこと。

 母は、僕が小さなころから完璧主義。でも、ちょっと抜けているところもあって、わが母ながらチャーミングな女性です。父とは真逆な性格で、栗原家は激しい父と姉、穏やかな母と僕という二極化でありながらも、正反対すぎてバランスが取れていたのだと思います。(中略)

 基本的に母は、僕が子どものころからあまり変わらない人だと思います。自分を犠牲にしても家族が幸せになれば、それで自分の幸せに還元できる人です。実際にベストセラーになった『ごちそうさまが、ききたくて。』と『もう一度、ごちそうさまがききたくて。』は、栗原家のリアルな食事でした。手間を惜しまず、さもない工夫やほんのひと手間を掛けるだけで食卓や暮らしが豊かになる。そんな母の真実がベストセラーになった理由ではないかと思います。

 2019年8月に父が亡くなって、母は、一時自分の生きる意味を見失っていました。やはり母の仕事や暮らしへの意欲は、父や家族の幸せだったんですね。

 しばらくは、泣いている母を傍らで支えながら、ただただ時が過ぎるのを待っていました。どんなにやさしい言葉をかけようと、父を失った悲しみは母にしかわからないからです。最近になってやっと元気を取り戻しつつあるような気がします。周りの大勢の人に温かく見守られながら、自分のいる場所をきちんと整理しつつあるように思います。
(大和書房『栗原家のごはん』より一部抜粋)

料理をつくるときに大切にしていること。

 料理をつくるということは、喜んでもらうということ。独りよがりでは、喜んでもらえません。僕はプロの料理人ではなく、家庭料理を考える人です。家庭料理で一番大事なのは、相手のことを慮ることです。ふだんの好き嫌い、味の濃淡、体調や季節性を全部加味したうえで、家族が今、どういう状態にいるか確認して料理をつくるようにしています。

 難しく聞こえますが、ふだんから家族を見ていれば自ずとわかることで、夕食の献立を考える際に、いつも考えながら進めています。(大和書房『栗原家のごはん』より一部抜粋)

『栗原家のごはん祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。』(栗原心平著、大和書房刊)※画像をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします
【画像】母・父から受け継いだ「わが家ごはん」レシピの数々

プロフィール:栗原心平
料理家。株式会社ゆとりの空間代表取締役社長。会社の経営に携わる一方、幼いころから得意だった料理の腕を生かし、料理家としてテレビや雑誌などを中心に活動。

<取材・文/飯田美和>