処方薬が供給不安の現状

 コロナ関連だけではない。2021年初めから、医療機関の処方全体が供給不安の状態にあるのだ。

 製企業を束ねる『日本製団体連合会』が今年3月末時点で発表した「供給に難がある医品」は、3000品目以上。このうち8割以上に当たる約2500品目が、新の特許失効後に販売される同一成分の安価な「ジェネリック医品」(以下、ジェネリック)である。

 東京・台東区の『みどり局』経営者で、東京科大学客員教授でもある剤師の坂口眞弓氏は「抗不安などの精神神経系や、免疫疾患で使うステロイドなども供給が不安定」と説明する。

 坂口氏が差し出したのは医品卸からの「欠品のご連絡」というFAX。不眠やうつ、不安障害などに使われる『アルプラゾラム』(主要製品名『ソラナックス』)が納入できないとの知らせだ。通常、局が発注した医品はほぼ翌日までに届くが、FAXに記載の注文時期は7月下旬。取材時の8月中旬でも未納品という異常事態だ。

抗不安薬・ソラナックスの欠品を知らせるFAX。提供/『みどり薬局』経営者で東京薬科大学教授の坂口眞弓氏
抗不安薬・ソラナックスの欠品を知らせるFAX。提供/『みどり薬局』経営者で東京薬科大学教授の坂口眞弓氏

 なぜこのようなことが起きているのか? そこには品薄の中核を占めるジェネリックが置かれたここ2年ほどの環境変化が影響している。

 そもそも新の化学成分の特許失効段階で登場するジェネリックは、新の情報を利用したコピー品で、開発コストが低くて販売価格も安価。処方のほとんどが公定価格の日本では現時点でジェネリックの価格は同一成分新の半額以下に規定されている。

 日本では世界最速で高齢化が進行中だが、国は公的医療費負担増大を抑えるため、2000年代半ばからジェネリックの使用促進策を打ち出してきた。その結果、先発からの切り替えが進み、現在ではジェネリックの使用割合は流通量の約8割に達している。

 そうした中で'20年12月、福井県のジェネリック専業製企業(以下、ジェネリック企業)の『小林化工』が製造・販売していた水虫などの治療に大量の睡眠成分が混入していたことが発覚。意識が朦朧とするなどの健康被害は200人以上、因果関係は不明ながら、うち2人が死亡した。原因は、厚生労働省から承認された手順と異なる方法でを製造し、その過程で誤って睡眠成分が混入されたことだった。

 これを機に翌'21年、ジェネリック国内最大手の『日医工』、局チェーン・日本調剤グループの『長生堂製』、大阪市に本社を置く『共和品』などのジェネリック企業で、相次いで同様の不正が発覚。各社は医品医療機器等法の違反で業務停止命令を受け、小林化工に至っては廃業に追い込まれた。

 業務停止を受けた各社は改善策に着手中で製造体制が整わず、取引していた医療機関や局が一斉に他社のジェネリックへ切り替えを模索。しかし、小規模零細のジェネリック企業が多く、供給は不十分なまま。一部では患者負担が増える新に戻す動きもあるが、こちらもジェネリック登場後は生産を縮小しており、医品全体が供給不安となっている。

 加えて「この状況が1年以上続き、局も早め多めの発注傾向となり、さらに供給不足を招いている側面もある」(坂口氏)という。