格安古民家で味わう田舎暮らしの現実

 自然の中での暮らしに憧れるものの、都心の利便性を手放すのも捨てがたい。東京都の高橋志保さん(40代)の夫は、そんな欲張りな2拠点生活を実現させるべく、山梨県にある古民家を30万円で購入した。ただし、妻の志保さんに黙って……。

「腹が立って、1週間は口をききませんでした」

 と、志保さん。それでも夫は古民家の魅力をしつこく語って聞かせ、子どもも喜んでいる。いったんは折れた志保さんが激高したのは、実際の物件を目にしてからだった。

「写真とは大違い。広々した造りをイメージしていたら、実際は10畳と8畳の部屋にダイニング、あと畑が付いていました。家の中は古くて床も壁もぼろぼろ。トイレは天井が壊れて、その隙間から青空が広がっていました」(志保さん、以下同)

 2年前まで元の家主が住んでいたとは信じられない、あばら家同然の状態だった。

「手放そうかとも思いましたが、買い手がつかないだろうと考え直し、腹をくくって修繕をしまくったんです。さすがにトイレは業者に任せましたが、できることは自分たちで何でもやる。

 すぐ草ボーボーになるので草むしりが欠かせないし、秋になれば半端じゃない量の落ち葉掃除が待っている。これに普段の家事が加わるので、田舎なのにちっとものんびり過ごせません」

 今では週末ごとに古民家で過ごすのが定番になった。ただ当然ながら、ずっと住んでいなくても光熱費や水道代の基本料金は請求される。

「家は安くても、管理や維持に本当にお金がかかると痛感しています。梅宮アンナさんが管理や維持の大変さから、辰夫さんの家を手放したという話に共感しました。それでも、東京じゃゲームばかりしている子どもが楽しそうに薪を割ったり、山で遊んだりしている。もう少し続けてみてもいいかなと思っています」

 2拠点生活をしてみたけれど「どこにいても暮らしは変わらない」と、打ち切った人もいる。東京都の羽鳥慶子さん(40代)だ。

「私は独身で子どもはいないし、仕事もフリーランス。親もまだ元気。そんな今こそと思い、自治体の支援制度を利用して、東京・長野で2拠点生活を始めたんです。それにジム通いをしても続かないけれど、田舎だったら、自然と身体を動かす機会も増えそうかなと思って」

 2拠点生活を始める前、実践する人のSNSを見ると、出会いにあふれたキラキラした世界が広がっていた。

「正直、そこに多少は期待しました(笑)。でも、長野にいても相変わらず仕事をするのは家だし、買い物はネットで済ませるから、生活は良くも悪くも変わらない。2拠点生活を始める前は、ヨソモノはいじめられるのかな? と心配したんですが、田舎だから人にめったに出くわさない。

 結局、私のようにひきこもりがちなシングル女性の場合、どこに住んでも一緒かなあと思います」(羽鳥さん)

 実際の暮らしぶりや適性など、2拠点生活を始める前には下調べが欠かせない。支援を行っている自治体もあるので気になる人はチェックを!

【2拠点生活をしている理由】
1位 単身赴任・転勤
2位 親や祖父母の介護
3位 気分転換のため
4位 実家の近くで暮らしたい
4位 便利な生活と自然の中での暮らしを両立させたいから
4位 避暑・避寒のため
(出典:マイボイスコムの2021年調査より)