ダイエットは単なる食の問題ではない

 ’83年には、米国の歌姫、カレン・カーペンターが亡くなった。

「太った子ブタちゃん」

 などとからかわれたことをきっかけに、やせることにのめり込むうち、拒食や過食嘔吐(おうと)に陥った彼女は、心臓発作により32歳で急死。折しも『週刊明星』が2回連続で拒食症を記事にしていて、そのあいだにこの訃報が飛び込んできたため、後編では彼女の死にも触れられることとなった。

 物事の節目には、こうした偶然も生じやすいのだろうか。

 というのも、この12年後、筆者は個人的にこうした偶然を経験した。

 この年の春『ドキュメント摂食障害』という本を出版。その半年後、宮沢りえの激やせが世の関心事となり、筆者もテレビ朝日系のワイドショーで梨元勝のインタビューを受けたりした。

 その模様は2日後に放送されるとのことだったが、一日早まることに。筆者がまさにインタビューを受けていたころ、彼女がゴルフイベントでさらなる激やせぶりを見せて大騒ぎになり、それが翌日のトップネタに変わったからだ。

 カレンもりえも、激やせのリスクを広く世に広めた存在である。

 しかし、それによって世の女性がやせたがる流れが変わることはなかった。

 次から次と新たなダイエット法が登場。「こんなにヤセていいかしら」とか「ヤセたいところがすぐヤセる」「簡単料理でおいしくヤセル」「今度こそ、やせる」「いつまでもデブと思うなよ」「読むだけでやせる!」といった巧みな殺し文句でやせたい女心を煽(あお)った。

 ダイエット産業と呼ばれるほどの隆盛は、世の女性の願望がそれだけ強いことの反映でもあるだろう。

 その一方で、リスクを啓発しようとする動きもある。

 2007年には、摂食障害者でもあるフランス人モデル、イザベル・カーロの激やせヌードポスターが衝撃をもたらした。その3年後、彼女は日本のテレビにも出演したが、それが放送されたとき、彼女はもうこの世にいなかった。来日の無理がたたってか、帰国してすぐに病死(享年28)したのである。

 そんな光と闇とが交錯する状況を象徴する番組が『ザ!世界仰天ニュース』(日本テレビ系)だ。

「仰天チェンジ」というダイエットの成果を紹介する企画が名物だが、摂食障害についても国内外の実話をさかんに紹介している。また、最近は「やせの大食い女子」のエピソードも。いわば、やせたいけど病みたくはない、そしてできれば食べてもやせていたい、という欲張りな理想に応えようとしているわけだ。

 それにしても、ダイエットが広まってから約半世紀。そろそろ失敗しない方法が生まれてもよさそうなものだが、たとえ目標体重になれても、10年間維持できる人はほんの数%だとするデータもある。

 まして、摂食障害を患ってしまうと、簡単には抜け出せない。それはクスリ依存からの回復以上に大変なのではないか。食の場合、完全に断つわけにはいかず、ちょうどいい食べ方をしながら取り戻すしかないからだ。

 また、ダイエット摂食障害は単なる食の問題ではない。その根底には、人間関係のストレスや承認欲求といった「心」の問題が絡んでいる。コロナ禍による休校中に、ダイエットを始め、そこから摂食障害になる人が増えたというニュースは、そのあたりを示すものだ。

 そんな現代女性の葛藤について、今後も浮き彫りにしていきたい。