以前の土曜ワイド劇場ドラマはお色気満載だった

「土曜ワイド劇場のドラマには『混浴露天風呂連続殺人』のような、お色気満載の娯楽性に極端に寄せた作品もいっぱいありました。

 そんな中で『トラベルミステリー』は、言わば正統派ドラマ。鉄道を使ったトリックやアリバイ崩しなどに力を入れた本格ミステリーに徹しています。たとえ犯人がアリバイを主張しても、十津川警部と亀井刑事が時刻表を見て推理し、自ら列車に乗車して確かめ、トリックを見破る――。西村京太郎さんの原作の特色を忠実に再現していました。

 そのせいか、ごく初期の数話を除いて『トラベルミステリー』にはお色気シーンがほとんどないんです。今でいうF1層、20~34歳の女性視聴者をメイン・ターゲットにして始まったというのもうなずけます。これが40年にわたって続く長寿番組となった、大きな理由と言えるのではないでしょうか

『トラベルミステリー』を通して「旅情をかき立てられた」と話すのは、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんだ。

「亀井刑事が訪ね歩く、全国の景勝地の映像がとにかく美しかった。子ども心に“この列車に乗って旅してみたいな”と思って観ていましたよ。阿蘇へ向かう急行『火の山』とか、今はなき寝台特急『ブルートレイン』とか……。

 なかでも、フィルムで撮影していたという90年代初頭までの映像美は格別ですね。ミステリーファンだけでなく、鉄道ファンの心もつかんでいたのだと思います」(木村さん)

 事件に謎解き、鉄道、旅と、盛りだくさんな見どころによって、『トラベルミステリー』はこれほど長くお茶の間に親しまれてきたのだ。