毎日がその日暮らしの落語家人生

2023年2月1日、両国寄席『六代目三遊亭円楽追善興行』で。好楽を囲む三遊亭愛楽(右)と三遊亭兼好
2023年2月1日、両国寄席『六代目三遊亭円楽追善興行』で。好楽を囲む三遊亭愛楽(右)と三遊亭兼好
【写真】好楽ファミリー他、とみ子夫人の前で子どものようにはしゃぐ三遊亭好楽

 2023年2月11日から20日まで、東京・浅草演芸ホール昼の部で『五代目春風亭柳朝三十三回忌追善興行』が開催された。好楽が林家九蔵時代に所属していた落語協会の定席。そこに他団体の好楽が出演することは異例中の異例だが、落語協会の理事会が特例として認めた。しかも全会一致で、だ。

 初日から満員札止めという盛況ぶり。同演芸場の松倉由幸社長は「お正月以来ですね、札止めは」と大入りに経営者の笑顔を見せる。

 主任を務めた六代目春風亭柳朝(52)は、「好楽師匠目当てもあるんじゃないでしょうか。初日は不思議な客席の雰囲気でした」と振り返り、「以前、先輩落語家に『九坊は一門だから、円楽党に行っちゃったけど』と言われたことがあります。初日には、前座やお囃子さんにも『柳朝さんから』と気遣いもしてもらいました」と感謝する。10日間、連日満員御礼で、追善興行は幕を閉じた。

 所属協会が違っていても、同業者に好かれる。「人にはよくして、頼られると何とかしてあげたい」(好楽)という性格に加え、「お世話になると倍返しをする」(好太郎)という義理堅さ。王楽も「落語協会の師匠と会うと『兄さんのせがれか』と仕事をもらったりします。父が付き合いをしてくれていたからで、それは感謝ですね」と、父の存在のありがたみを、落語家になってから実感する。

 たくらみもなく、人を押しのけることもなく、とみ子夫人に導かれるまま今へと至った人生。『池之端しのぶ亭』が完成したとき、好太郎はおかみさんの言葉を聞いていたという。

「うちのおとうさんは、運でここまで来たんだもんね」

 それを聞いてニコニコしていた好楽。まさに運も芸のうちを地でいく、幸せすぎる芸人人生だ。とはいえ運は、それ相応の生き方をしていない人には寄りついてこない。

 昨年12月、今年7月に錦笑亭満堂として真打ちに昇進し、来年1月21日に日本武道館で真打ち昇進披露興行を開くことになっている三遊亭とむ(39)。会見に同席した好楽は、弟子育成法についてこう語っていた。

「私の教育法は、兎と亀。亀でいかなければダメだよ。長い年月をかけてしっかり芸を追求するんだから、亀がいちばん。早く売れると途中でくたびれちゃう。長い職業ですからね」

 好楽という生き方は、まさに亀の歩み。76歳の今、落語界の前方で歩み続け、同業者や後輩に頼りにされ、周囲を接着する存在になった。

 五代目円楽一門会には、三遊亭円生襲名などいくつかの課題が横たわっている。

「1、2年で決めます」ときっぱりと意気込む好楽は、枯れていながらも枯れていられない重要な立場だ。「76歳だけどまだまだだから、という心持ち。毎日毎日がその日暮らしだと思っています」


取材・文/渡邉寧久
わたなべ・ねいきゅう 演芸評論家・エンタメライター。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。ビートたけし名誉顧問の「江戸まち たいとう芸楽祭」(台東区主催)の実行委員長。東京新聞、デイリースポーツ、夕刊フジなどにコラム連載中。