尻を叩いて支えてくれた妻との思い出

好楽ファミリー勢ぞろい。左手前から2人目が好楽の長男、落語家の三遊亭王楽
好楽ファミリー勢ぞろい。左手前から2人目が好楽の長男、落語家の三遊亭王楽
【写真】好楽ファミリー他、とみ子夫人の前で子どものようにはしゃぐ三遊亭好楽

 若いころに覚えた酒も競馬も、今も好楽の人生を彩っているが、昔の芸人につきものの女性に関する浮いた話はまったくのゼロ。

 好楽の息子で、映画好きの王楽は「もし女性関係があったならば、(ロバート)デ・ニーロばりの名優ですね」と、逆説的にたたえる。要するにありえない、ということ。

「怖かったんじゃないでしょうか、母親が。我々子どもを怒るのは当たり前ですが、父親もよく怒られていました。ひょっとすると一番怒られていたかもしれないのが父親。『こんなにぐでんぐでんになるまで飲んで!』とか、夜遅くに。父親は反論しないというかできないというか」と、王楽は夫婦間の力関係を笑顔で振り返る。

「父親は尻を叩かれないとやれない人なんで、母親がうまくやっていた。亡くなった後は(2020年4月13日、大腸がんで死去。72歳)長女が叩いています。五代目(円楽)がいない、母親がいない、昨年亡くなった六代目(円楽)は、父親に『兄さんダメだよ』とか苦言を呈してくれていたんですが、六代目もいなくなってしまった。今、父親は無敵状態ですね

 酔っぱらって帰ると怒られるとわかっていた好楽は一時期、酒のしくじりを取り持ってくれた兄弟子・柳朝の総領弟子で、先日『笑点』の新メンバーになった春風亭一之輔(45)を育てた春風亭一朝(72)を、防波堤代わりによく連れて帰っていたという。

 好楽が記憶をひもとく。

「一朝は毎晩泊まっていたんだけど、あいつはくさいんだよ。かみさんに向かって『おねえさん、どうして女優にならなかったんですか』って。こっちはばかばかしくなって先に布団に入っちゃうんだけど、かみさんも悪い気はしないんだね。『だってそんなこと言われても』って言いながら『もっと飲む?』って。ひとりで帰ってくると不機嫌だから、一朝には助けられたね」

 誰しもが認める愛妻家だ。

今、月に2回はお墓参りに行っています。祥月命日の13日ともう1日。いつもひとりで、ゆっくりね」としみじみ語る好楽は周囲に気遣いをさせまいと、とみ子夫人の闘病をしまいまで隠し通した。

亡くなる前の年、師匠に『具合悪いんですか』と聞いたら『夏バテ夏バテ』って。痩せてはなかったんですが、髪型でわかるじゃないですか。本当に仲がいい好楽一門ですが、病気のことだけは弟子にも心配かけまいと言いませんでしたね」と振り返るのは総領弟子の好太郎だ。

「亡くなった日の朝5時に、電話が来ました。『誰にも言うな、おまえと家族だけだ』と師匠に口止めされたのですが『そういうわけにはいかない。せめて一門には言わないと』と説得しました。葬儀も、家族と総領の私だけでした。おかみさんが亡くなってしばらくは、抜け殻みたいになっていましたね」