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ー 溝端淳平、今川氏真を演じて「いい意味でふたつ、裏切れた」 ー 氏真と重なる自分、俳優人生の中での答え
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ー 再デビューしたかのような新鮮さがある ー 9年ぶり、松本潤&有村架純との共演

 今川家、滅亡ーー。3月26日に放送された、NHK大河ドラマ『どうする家康』(第12回)はまさに今川氏真のための回だった。幼少時には徳川家康(松本潤)に兄と慕われ、しかし桶狭間の戦いで父・今川義元(野村萬斎)が討たれると、離反者が続出。ついには家康と武田信玄(阿部寛)に侵攻され、敗れるほかなかった氏真……。

 演じた溝端淳平(33)は、こう振り返る。

溝端淳平、今川氏真を演じて「いい意味でふたつ、裏切れた」

「第12回までの台本をいただいたうえで、オファーをお受けする形でした。最初のころはヒールだった氏真も、自分の中では第12回の“決着”から逆算しながら作り上げていけたかなと思っていて」

 氏真は一貫して、家康の対極の存在として描かれた。

「望んでいないのに天に選ばれ、どんどん出世していく家康。望んでいるのに、才能と時代に見放されていく氏真。兄弟のように育ってきて、楽しい思い出もたくさんあるふたりは、戦国の世でなければきっと仲良く手を取り合い、 同じ目標に向かって邁進(まいしん)できたのに……。切なさというか、もの悲しさというか、つい戦乱の世を恨むような感情になります」

 従来の氏真といえば、蹴鞠(けまり)と歌にほうけ、今川家を滅ぼした愚将という印象だったが、

「ここまで泥くさくて、人間くさい今川氏真は初めてだったのではないかと思います。そういう意味では、自分も“今までの溝端淳平とイメージが違う”と言われることがすごく多かったです。いい意味でふたつ、裏切れたのかなと思っています」

氏真と重なる自分、俳優人生の中での答え

 溝端の鬼気迫る演技に、SNSなどでは“釘付けになった”“いい俳優になった”などの称賛の声が相次いだ。そんな大きな反響を喜びつつも、氏真には共感できる部分がたくさんあると話す。

「僕は『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』('06年)でグランプリを獲得して、華々しくデビューして。最初はアイドル的な人気の中でお仕事をたくさんさせていただきました。でも、主演映画で30カットぐらいNGを出してしまったり、全然ダメだったんです。だんだん自分より実力のある人たちに抜かれていく感覚があり、20代のころは自分の芝居が誰にも認められない葛藤や孤独感を感じていました」

溝端淳平(撮影/矢島泰輔)
溝端淳平(撮影/矢島泰輔)

 自分は何をしたらいいのか? 暗闇を彷徨(さまよ)うような気持ちの中、出会ったのは“世界のニナガワ”こと故・蜷川幸雄さん(享年80)。

「稽古場で毎日叱咤(しった)されて、追い詰められながらも食らいつく日々で、本当に鍛えられました。何より、今までどこがダメなのかを誰にも言ってもらえなかった中で、蜷川さんに正面から“おまえは下手くそで、才能がない”と言われたことで、吹っ切れました」

 第12回で、氏真が偉大な父に“おまえには将としての才はない”と断言される姿にも、自身が重なったという。

「でも、才能がないからダメなわけじゃない。それが、今までの俳優人生の中での自分の答えなんです。才能がないなりに頑張って、少しずつ積み重ねていけばいいと思えるようになりました」

 そんな苦しみの中、俳優を辞めたくなったこともあったのでは?

「いや、それは考えたことがないですね。自分にはほかにやりたいことがないので。つらい中でも逃げずにやっていれば、経験値は積める。成功はわからないけど、成長することは必ずあると信じてきました」