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ー 「睡眠薬」「抗うつ剤」高齢者に行われる多剤併用
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ー 重複処方とためこみで「相当量」の可能性

 18日朝、救急搬送された歌舞伎俳優・市川猿之助さん(47)が歩けるまでに回復し、すでに退院していることがわかった。警視庁は19日、自宅で見つかった両親の死因は司法解剖の結果、「向精神薬中毒の疑い」と発表した。

 猿之助さんは発見時「意識障害があり、会話ができない」状態だったとされるが、本人も向精神薬を服用したのかどうかはわかっていない。

 ネット上には「向精神薬が大量にある状況ってどういうものなんだろう」「いったい何錠のんだんだ?」「死んじゃうほどの向精神薬ってなに?」といった声があふれた。

「睡眠薬」「抗うつ剤」高齢者に行われる多剤併用

「向精神薬とは、脳などに作用して、いわゆる精神活動に影響を与える物質全般を指します。例えばお酒に含まれるアルコールは、飲むと一時的に気分が高揚したり、急に眠くなったりするなど脳の働きに影響するので、広い意味では向精神薬に含まれます。
ただ医療現場で「向精神薬」といった場合は、不眠や気分の落ち込みなど精神的な症状を訴える人に対して医師が処方する、睡眠薬や抗うつ薬などを指すのが一般的です」

 と話すのは医療ジャーナリストの市川衛さん。

 脳は、睡眠や食欲、呼吸など生命の維持に関わる働きをコントロールしていており、さらには、感情や認知、痛みの知覚など非常に多様な働きを担っているが、こうした働きのバランスが崩れて生活に支障が出た時などに向精神薬が処方される。具体的には不眠、不安、うつ、認知症など様々なケースが存在する。

「向精神薬の乱用が社会問題化している代表例が、アメリカ。アメリカでは、麻薬系鎮痛薬であるオピオイドの乱用が問題となり、“オピオイド・クライシス”と呼ばれています。過剰摂取による死亡者は、2004年には年間9千人ほどでしたが、2021年には年間8万人が亡くなっているとされます。オピオイド鎮痛薬を安易に処方する医療施設の存在や、地方都市における経済格差、近年ではコロナ禍による社会不安の増大などが背景にあると指摘されています」

 日本では、特に高齢者に対して、不眠や不安などへの対処として睡眠薬や抗うつ薬などの「多剤併用」が行われ、依存症や転倒、寝たきりなどを引き起こしているとたびたび指摘されている。