契約書に書かれていた衝撃の内容

 劇団と団員が合意のもとで契約書を交わせば、研6以降もタカラジェンヌとして活動を続けることができる。しかし、この契約書が“ブラック”なのだという。

少なくとも、10年ほど前の契約書には“自身が出演する公演のチケットとDVDを一定数以上、自腹で購入して直売します”といった“ノルマ”が明記されていたんです。これが団員たちにとって大きな負担になっていました。購入したチケットやDVDを売る自信のない団員は、契約を交わさず引退するケースも少なくありませんでした

 自腹の負担額は具体的にどれほどなのか。

トップスター、つまり1番人気の団員は1つの上演作品で100万円は優に超えます。その負担額は、セリフや出番の多い役から順に2番手、3番手と低くなっていきます。団員の多くは1年で3作品前後に出演して、その都度、負担がのしかかりますので、どの団員にとっても金銭面の負担は大きいんです

 自腹で購入した大量のチケットやDVDを団員たちはどうやって売りさばくのか。

「以前、とある小売店の社長令嬢が団員として在籍していたのですが、親の会社がチケットをまとめ買いしていたのか、お店のプレゼント企画で頻繁に宝塚のチケットが出されていたんです。裕福な家庭に生まれた団員は有利なんですよ」

 多くのファンを抱える人気タカラジェンヌであっても、自腹購入分をさばくのには苦労するという。

「“ノルマ”をこなすためにファンの心をつなぎ留めなくてはいけませんが、宝塚歌劇団は個人の公式ファンクラブは許さず、専属マネージャーといったスタッフも就かせません。そのため、トップスターであっても、有志が運営している私設ファンクラブがノルマをさばく頼みの綱。個人の裁量で行わなくてはいけないので、負担が大きいのです」

組トップがそろう特設サイト。右から芹香斗亜、礼真琴、彩風咲奈、月城かなと、柚香光
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 経済的に重すぎる負担だが、劇団が団員に求めているのは個々の“集客力”だという。

「団員たちが音楽学校で教わってきた歌や踊りはすべて、集客力を上げるための手段とみなされます。なので、契約書で課せられた以上の枚数のチケットやDVDを売りさばく団員であれば、より良い役に抜擢されます。一方で、集客力がない団員は、セリフもない端役ばかりになって最終的には契約も更新されず“卒業”扱いになります」

 元宝塚関係者によると、“年間で40人の団員を辞めさせることが運営側の責務”といった“悪習”が蔓延しているという。

「厳しい年功序列や高額な自腹営業など、団員が自ら辞めざるを得なくなる不条理な仕組みが宝塚には多くあります。“厳しい競争を勝ち抜いた逸材だけがトップスターとして利益をもたらす”という考え方が宝塚歌劇団なのでしょうが、団員の精神面、金銭面の負担が大きいのも事実。劇団内でのいじめ問題も、このような環境が一端を担っているのかもしれません」

 団員と交わす契約書には自腹購入に関する項目があるのか。劇団に問い合わせると、「そのような事実はございません」と回答した。

 きらびやかなショーの裏側に巣くう闇。文豪ヨハン・ゲーテの言葉どおり、“光の多いところには、強い影がある”ようだ。
 

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