父を肝臓がんで亡くし、自身も2度の乳がんで苦しんだ体験を持つファイナンシャルプランナーの辻本由香さん。仕事とがん治療の両立支援を行う患者団体を立ち上げて活動している彼女も、意外なお金のリスクを経験している一人だ。

転職活動中の発覚だったため精神的な不安が

「3年ほど勤めた会計事務所を退職して間もない2011年夏、クリニックでがん検診を受けた際に右胸に初期の乳がんが見つかりました。同じ年に受けたマンモグラフィーでは異常の指摘はなかったのに……。これから一生涯の仕事を見つけようと考えていた矢先に、闘病に向けて状況が一変しました。検査、手術、治療と気の休まる時間もないまませわしない生活が始まりました」(辻本さん、以下同)

 診断翌月には手術を受けるが、がんが広範囲に及んでいたため右乳房全摘手術となった。その後は乳房再建を行わず、追加の治療も必要なかったため、リハビリのみで経過を見ることとなった。ところが、12年後の2023年に定期検診で今度は左胸の乳がんが見つかったのだ。

「まさか反対側も乳がんになるなんて微塵も考えていなかったので動揺しました。調べてもらったところ、以前の右胸のがんがその後大きくなって見つかった再発ではなく、また新しく生まれた原発がんであることがわかりました。

 再発のリスクが高ければ乳房全体を摘出する必要があるのですが、原発がんのためできるだけ乳房を残すことを希望しました。主治医からは 『遺伝子検査で変異がわかれば全摘手術を検討したい』と言われ、約7万円する検査を受けた結果は幸い陰性でした。今回は術後に放射線治療を行い、昨年の12月に終えたところです」

 がんになるのは一度きりとは限らない。辻本さんの場合はどんなお金の問題に困ったのだろうか。

 まずは最初のがんのとき。

「最初に乳がんになったときは長く働きたいと思って、それまでの仕事を辞めて転職活動中だったので、身体のことだけでなく経済面や、もう働けなくなるのではといった精神的な不安がありました。もし退職する前にがんがわかっていたら、傷病手当金などの社会保障や有給休暇など勤務先の制度を利用しながら仕事のことを気にせずに治療に専念できていたと思います。そしてもっと体調に合わせた働き方ができていたはず」