退職後にがんが見つかって福利厚生を活用できなかった辻本さんは、自分と同じような思いをしないようにと2度目のがんを治療しながら検診の啓発や治療と仕事の両立の不安や問題に対して相談支援を行っている。

「2回目の乳がんでは、放射線治療のための交通費がかさみました。奈良から大阪まで通っていたので20日間で約3万円かかり、手当などはないため定期券を購入して節約する程度でした。今は自営業なので治療と仕事のスケジュールを合わせることが大変で、急な出来事に備えるためにはお金の面と仕事のスケジュールに余裕を持つことが大切だと感じています」

保険に入っていても、ときどき見直すことが大切

「私は民間の医療保険に入っていて、入院・手術給付金に加えて女性疾病特約や3大疾病特約、先進医療特約まで充実した内容にしていました。でも、2回目のがんがわかった際に、再発・転移だと給付金が半額になる契約だとわかって驚きました。今回は2回目も再発ではなく原発性だったので全額もらえましたが、今後のことを考えると預貯金で備えておくことも必要ですし、年々進む医療技術によって治療内容も変わるので、保険に入っていたとしても、ときどき見直すことが大切だと改めて感じています

 がんが長く向き合う病気になっている今、公的な医療保険や民間の保険を活用したとしてもお金の不安は拭いきれない。公的医療保険には「高額療養費制度」があり、医療費の負担が重くならないように1か月あたりの上限が設定されているが、高所得者の自己負担額は増加している一面もあるのだ。

高額療養費制度や傷病手当金などの社会保障に加えて、会社員なら勤め先の給付金や見舞金などの制度も使い、さらに追加の治療にも備えられる貯蓄があると安心です。それでも不安が残る場合には民間保険を検討して準備するといいでしょう

 乳がんはホルモンバランスの変化だけでなく、肥満や家族歴など、さまざまな危険因子で誰もがなりうる病気だ。特に50代前後をピークに近年、増加し続けている。もしものときに備えてお金のことをいま一度、見直しておきたい。

取材・文/難波安衣子

黒田尚子さん ファイナンシャルプランナー。がん患者さんのお金の悩みを解決するFPの団体「患者家計サポート協会」の顧問を務める。『がんとお金の真実』など著書多数。

辻本由香さん ファイナンシャルプランナー。現在、奈良で事務所を開業して相談を受けている。YouTubeチャンネル「がんと向き合うFPチャンネル【がんを生きぬくお金と仕事の相談室】」を配信中。