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ー “名物審判”の白井氏

 キャリア29年、1人の裏方の快挙にネットが沸いた。11月17日、日本野球機構が発表した2025年シーズン「最優秀審判員賞」に白井一行審判員が選出されたのだ。

“名物審判”の白井氏

「NPBは白井球審の選出理由について、『29年という長きにわたる審判経験により、リーダーシップやゲームマネージメント力が増したことが評価された。判定技術や正確性に安定感があり、名実ともにNPBを代表する審判員へと成長した』と述べています」(スポーツ紙記者、以下同)

「ストライク」の掛け声が独特で、野球ファンの間でおなじみの名物審判、白井一行氏。その存在感の秘密は常に“厳格さ”を貫いてきたことにある。

「2010年7月、東北楽天ゴールデンイーグルスの山崎武司選手(当時、以下同)が白井球審のストライク判定に激怒して退場した場面。抗議の際、山崎選手は『あれが本当にストライクなら、俺はマイナーに行ったほうがいい』などと激高しましたが、白井球審は決して判定を覆しませんでした」

 白井氏の判定は、数々の監督も熱くさせた。

「2013年、横浜DeNAベイスターズの中畑清監督がセーフ判定にタックルして退場したときも、同年、日本ハムファイターズの栗山英樹監督が『あれが死球なら審判を辞めろ』と怒鳴ったときも、白井球審は判定を曲げませんでした」

 そんな“名判定”の歴史のなかでも、もっとも白井球審の“人間味”を感じさせるエピソードがこちらだ。

「現在ドジャースの佐々木朗希投手が2022年4月、千葉ロッテマリーンズに在籍時、17イニング連続の無安打投球を続けていたときのこと。ボール判定のたびに苦笑いを浮かべた佐々木選手に白井球審はマスクを外して詰め寄ったのです」

 白井球審からすれば、苦笑を“不服の表現”と感じ取ったのだろう。キャッチャーの松川虎生が間に入り、井口資仁監督もベンチを飛び出すなどして、それ以上の事態には発展しなかったが、球場は一時騒然となった。結果的に佐々木は勝利投手となったものの、記録は17イニングで途絶えた。このときの判定の正誤や白井球審の感情は今となっては知る由もないが、1つ言えるのはプロの“本気の対面”である。

 球界を代表するエース・ダルビッシュ有投手とも因縁がある。

「2011年6月、46という連続イニング無失点を続けていた日本ハムファイターズのダルビッシュ有投手でしたが、3回に暴投を出し、その記録が途絶えます。試合後、ダルビッシュが語ったのはボールの問題でした。ボールが滑っていたため、『もうちょっと(返球するときにボールを土で)こねて』と要望するも、白井球審からは『定められた土がないとできない』と拒否されたというのです」

 白井球審の厳格な性格がよくあらわれたエピソードだが、その11年後の先ほどの佐々木投手への“詰め寄り騒動”の際、ダルビッシュは自身のXでこう発言している。

《野球の審判って無茶苦茶難しいのに叩かれることはあっても褒められることはほとんどないよなぁ。選手も散々態度出すんだから審判にも態度出させてあげてください》

 自身も白井球審の厳格さに泣いた1人でありながら、その言葉には、時に選手以上に厳しい目にさらされる審判員が置かれた立場への“愛情”も感じ取れる。白井一行氏にもダルビッシュの愛情はきっと届いたことだろう。