“新しい価値観”を問いかけるドラマ

 ジェンダーなどを専門にしている、東京大学大学院情報学環の藤田結子准教授は、不平等な関係のカップルの要因をこのように語る。

「男性のほうが収入が高くなりやすい社会の仕組みがあるんです。日本は長らく男性が働き、女性が主婦として家事育児を担う男性稼ぎ手モデルだった影響です。よって、収入が多い者が発言力を持ち、物事を決めやすい状況に陥ってしまうんです。一方、若い世代のカップルでは共働きで生活する人も増えました。女性のキャリア継続が増え、男女間の収入差が縮まるにつれて、男性も家事や育児を負担すべきという意識が高まってきました

8月の中旬、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の撮影中にスタッフと談笑しリラックスモードの夏帆
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 劇中では、勝男が職場の後輩女性に対し、

「家で料理作って愛する人の帰りを待つっていうのはさ、女の幸せだと思うけどな」

 と、女性の幸せを決めつけるかのような場面があり、ひと言物申したかった視聴者も多いだろう。藤田准教授も、このような勝男の発言について、

「明治の時代まで遡ると、近代国家として発展するため、男性は働き、女性は良妻賢母でいるべきだという教育が広められました。時が流れ、女性の所得が増えても、性別役割分業意識が社会に根強く、一部の男性は、なかなか変わることができないんです」

 男女の関係で、これまでの特権的な立場を保ちたいという心理が無意識に働くのだという。

「変化への不安から、男らしさにこだわったり、妻や恋人をコントロールしようとするんです。しかし、性別に基づいた固定観念や性別役割分業を見直して、個人の能力や個性に応じてそれぞれが社会的な役割を担うべきなんです」(藤田准教授)

 ドラマの第1話で勝男はあっけなく、プロポーズを断られる。フラれて、鮎美が家を出ていったことで、自分で家事をやるしかない状況に追い込まれた。そこで初めて、大好きだった筑前煮を作ることが、どれだけ手間暇がかかるのか気づくことができたのだ。

「“時代遅れ”だった勝男の問題発言や行動。それが恋人や職場の人間関係によって、自ら正そうと行動し始めます。この勝男の姿が、視聴者から愛される理由でもありました。今まで“当たり前”だったことを、一度立ち止まり見つめ直す。“じゃあつく”は、そんな“新しい価値観”を私たちに問いかけてくれた新時代のドラマといえるでしょう」(前出・テレビ局関係者)

 価値観は時代とともに変化していく。人ごととせず、日々アップデートしていくことが必要なのかも――。

あす・なこ 毎クール必ず25タイトル以上は視聴するドラマウォッチャー。『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿
まつもと・なおこ 臨床心理士と公認心理師の資格を持つ。現在は、個人・カップル・家族のための「横浜ファミリーカウンセリングオフィス」を運営
ふじた・ゆいこ 東京大学大学院情報学環准教授。メディア、文化、若者、ジェンダーなどをテーマに、日本や海外でインタビューや参加観察による調査を行う