武井の新聞や雑誌の切り抜き

 そして番組の最後に、夫が遺品の中から、武井がタレントになって以降の、新聞や雑誌の切り抜きを見つけたことが伝えられる…。

 全編を通して、涙をこらえながらVTRを見ている武井の表情が印象的で、記事が見つかった後の、両手で顔を覆って嗚咽を漏らす場面は、見ている側も涙を誘われたに違いない。

 恐らく胸には、「もう少し早ければ…」とか「東京に住んでいたのか」とか、様々な思いが去来していたと思うが、そうしたことは口にせず、「素敵な人に出会えて、幸せそうに暮らしていたのがわかってよかった」と話す言葉には万感の思いが籠っていた。母親は子供と引き離されて不幸な人生を送ったのでは、と思い込んでいた視聴者もきっと同じ気持ちだったのではないか。

 正直、筆者も武井については、せっかく陸上十種競技で日本選手権を征したのに、ゴルフをしたり野球をしたり、猛獣と戦うシミュレーションをネタにして「百獣の王」を名乗ったりと、いろんなことに手を出し、落ち着かない人物なのかなという印象を抱いていた(どうも、すみません)。

 だがこの番組を見て、強烈な生存本能やハングリー精神の理由が理解できたように思う。

 これまでのパブリックイメージを覆す1本だった気がするが、みなさんはどう見ただろうか?

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。「3年B組金八先生卒業アルバム」「オフィシャルガイドブック相棒」「ヤンキー母校に帰るノベライズ」「IQサプリシリーズ」など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に「風景印ミュージアム」など。歴史散歩の会も主宰している。