〈献立考えて、買い物に行って、切ったりゆでたり炒めたり。片付けもあるし、作っている最中にすら、洗い物が出る。無償でやるのは、とんでもない労働だと思います〉

「例えば掃除や洗濯なら、3~4日しなくても健康には影響がないですよね。でも、料理には“毎日作らないといけない”という強迫観念のようなものがあるように思います。この気持ちをラクにするような場面を、描きたいと思っていました」

「人生はこうしてつながっていくものだなぁと」

 リリーが恵実にフリーズドライのみそ汁をすすめるシーンは、料理を担う人にとっては目から鱗かもしれない。

「私自身、みそ汁はちゃんと作らないといけない、と思っていたんです。それだけに、この場面は自分に言い聞かせるように書きました。実際、フリーズドライのみそ汁はおいしいものがたくさんありますし、これからは『味を比べてみよう』と家族に提案しながら、食卓に出そうと思っています」

 リリーは恵実に、「土日は家事をしない」という提案をするが、これは瀬尾さん自身の経験が反映されている。

「3年ほど前から土日は家事をしないと決め、料理も洗濯も掃除も何もしていません。夫が夕食を作り、私はテレビの前でダラダラしていて、『そろそろできあがるよ』という夫の声で起き上がる瞬間が快感なんです(笑)」

 物語の進行とともに、リリーの成育環境が少しずつ明らかになっていく。第5章では“ゼリー”と“フリーペーパー”をキーワードに、離れて暮らす妹と心が重なる瞬間が描かれている。

「ラストは決まっていなかったのですが、5章の執筆を始めたとき、1章で書いたフリーペーパーにきょうだいに関する記事があったことを思い出し、物語をうまく着地させることができました。人生はこうしてつながっていくものだなぁと、この小説を書きながら改めて感じました」

 瀬尾さんは、本作の登場人物がこれまでで一番愛らしいと感じているようだ。

「リリーと一緒に、登場人物たちのことを考えながら書き進めたので、私にとっては可愛らしくて、いじらしくて仕方のない人たちが集まった小説です。肩の力を抜きつつ、時には手を抜きつつ、料理を楽しんでもらえる一冊になってくれたらうれしいです」

最近の瀬尾さん

「子どもの昼ごはんを作らないといけないので、『夏休みって最悪』と思っていたのですが、今年は中学生の娘が夏休み中の昼ごはんを作ってくれることになりました。きつねうどん、レトルトソースを使ったパスタ、そうめん、ロールパンのホットドッグ、チーズとハムのタコスなどを作ってもらい、幸せでした」

『はじまりのスープ、夏ゼリー』瀬尾まいこ新潮社 税込み1870円
【写真】今作も映像化間違いなし? 瀬尾さんの最新作

取材・文/熊谷あづさ