元『サンデー毎日』編集長として、高倉健さんと触れ合ってきた18年間をまとめた近藤勝重氏の著書『健さんからの手紙 何を求める風の中ゆく』(幻冬舎刊)が、2月4日に発売される。そんな近藤氏に建さんとの思い出のエピソードを語ってもらった。

 取材依頼の手紙を出してから実に16年、近藤氏はついに健さんとの対面を果たすことに。それは、’12 年の映画『あなたへ』対談企画でのことだった。

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近藤氏宛てに届いていた、健さんからのシンプルな封筒

「対談を筆記する女性記者をひとり連れて行ったのですが、いざ対面するとその記者が〝なんか健さんのほうが、近藤さんの生徒のような感じがします〟ってね。健さんのほうが緊張していたのでしょうか、長い脚を組んだりはずしたりしてそわそわして落ち着かない感じ。質問にどう答えようか、と前もって考えたりしていたと話していました」

 そして同年秋、思いもよらないことが起きる。早稲田大学で教鞭をとっていた近藤氏の講義を、健さんが受講することになったのだ。

「『早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣』(幻冬舎刊)という、大学でしゃべったことを本にしたものがあって、それを読んだ健さんが聴講したいと。でも、健さんが大学へ来ることはありえないと自分の中で思っていたんです。で、1年ほどして年賀状の添え書きにちょっと“よろしかったら、ぶらりとおいでください”って書いたんですよ。そうしたら“誘ってくれてありがとう”といった返信がすぐにありましたね」

 そして’12 年11月22日、ついに高倉健が早大にやって来た。近藤氏は、ブルゾン姿の彼を生徒2人と出迎えては、大学裏手の小さな門から裏道のまた裏道を通して教室まで案内したのだ。

「大学にはひと言もいっていませんし、知られたらスポーツ新聞なんかも絶対に書くでしょう。コレは秘匿にしとかなくてはと、それは気を遣いました。ちょっとでも負担をかけることはしたくなかった。憧れの大スターですから」

 教室内の生徒数は15人。健さんは一番後ろの席に座り、ほかの生徒たちと同じように講義を受けたという。

「『あなたへ』対談後に、健さんから“近藤さん、生徒は何人ですか?”と聞かれて、“15人です”と答えたら、私の手をとって“16番目の生徒として、必ず参ります”と言ってくださっていました。“16番目の聴講生”にこだわっていたんですね」