日本に“ありがとう”という気持ち

ベトナム料理店『サイゴン』店長・グェンさん。取材時は夕食どき。ベトナム語と活気にあふれていた
ベトナム料理店『サイゴン』店長・グェンさん。取材時は夕食どき。ベトナム語と活気にあふれていた
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 前述のグェンさんは、ベトナム戦争を体験し、20歳のときに来日した。

「ずっとベトナムの家族には仕送りをしていましたが、今は生活も楽になりました。思うほどお金に苦労することなく、子どもたちも無事に学校を出してやることができました。今は通訳や翻訳を子どもがしてくれるので助かっています」

 ベトナム人の女性と結婚し、3人の子どもに恵まれた。息子2人は専門学校で学び、娘は大学を卒業して週3回、団地でボランティアの通訳をしている。

 この日も店には、作業服の若者や家族連れなどのベトナム人がひっきりなしに立ち寄り、ふるさとの言葉を話しながら、地元の料理をほおばる。

「日本人もよく来てくれます。こうして助け合いながら暮らせて、日本に“ありがとう”という気持ち」

 グェンさんは日本に感謝し、幸せをかみしめる。しかし、30年前と現在とでは、日本社会は大きく変わった。経済状況が悪化し、ヘイトスピーチをはじめ、外国人排斥運動が起きている昨今、体制が整わないまま多くの外国人を受け入れたりすれば、摩擦を引き起こしかねない。

 東京オリンピック招致に向けた美辞麗句でしかなかった……そう批判されないためにも、国を挙げて、いろいろな立場の外国人に“お・も・て・な・し”をすべきだろう。

(取材・文/フリーライター 木村嘉代子)