atsugi1029

 昨年5月、餓死して7年以上とみられる齋藤理玖くん(死亡推定当時5歳)の白骨遺体が自宅で発見された。10月22日、殺人罪などに問われた元トラック運転手の父・齋藤幸裕被告(37)の弁護側の最終弁論がスタートした。

「被告はIQが69しかないのです。被告の証言ははっきり言って完全にバラバラ。みなさんが聞かれたように、もうメチャクチャですよ。でも、それは覚えていないからなんです。検察は意図的と言いますが、私はそうは思わない」

 被告の精神鑑定をした医師は、こう証言。

「被告の知的レベルはボーダーライン上にある」

 別の精神鑑定医も、こんな証言を。

「心疾患ではない。乖離性健忘症でもないが、“記憶にない”という回答を見ていると、イヤな思い出を忘れようとする傾向がある」

 したがって、IQが69というのもうなずけない話ではない。しかし、本当にそこまで低いのだろうか。

 被告の妹は「頭のいい兄だった」と証言している。勤務先の運送会社で人事評価は高く、関連国家資格を2つ取得している。IQの低さと矛盾しているように思えた。弁護側の最終弁論は続いた。

「理玖くんが死んだとき、被告は“死んでびっくりした”と証言しました。死んでもかまわないと思っているのなら、びっくりはしません。殺意のないことを裏づけるものであります」

 そして、こうつなげた。

「本件の責任はもっぱら被告にあります。しかし、その全責任を被告に負わせるのは酷であります。私はみなさんの情に訴えているのです」

 家出した妻や肉親、児童相談所の責任にも触れた。

「妻の証言は全般的に信用できません。子どもを引き取りたいという積極的態度は見られないし、家出してからもケータイ代(被告名義で毎月5万円程度)は、ずっと被告に払ってもらっていたし、数十万円のホスト代も払わせています。

 ママ友は、妻は理玖くんを託児所に預けたままでネグレクト(育児放棄)が生じていたとも証言しています。父親や妹は近くに住んでいながら、被告に関してはほとんど無関心。児童相談所は“適切な対応をとっていれば事件は防げた”と言っています」

 妻に逃げられ、実家の手助けも得られず、行政のフォローもなかった。孤立した父子家庭だったことは確かだ。

 最終弁論で裁判長に、「最後に言っておきたいことは、何かありますか?」とうながされた被告は、「本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」とだけ小声で言った。

 '09年に制度が始まった裁判員裁判は、殺人事件や性犯罪事件で厳罰化の傾向がある。被害感情に沿った市民感覚が働き、悩み抜いたうえで重い刑罰を科してきた。

 この事件では10人の裁判員のうち7人が女性だった。判決は被告の置かれた状況より、理玖くんの最期に目を向けた。

 生きていればちょうど13歳の誕生日。捜査員が真っ暗な部屋に立ち入ると、玄関や廊下、台所までゴミの山だった。コンビニ弁当やおにぎり、パンの空き袋が散乱し、使用ずみのコンドームやオムツまであった。

 6畳の和室に進むと、そこだけポッカリとゴミをよけて布団が敷かれ、毛布がかかっていた。めくると理玖くんの遺体があり、慌てて毛布を掛け直した。

 皮と骨だけのミイラで、ひじなどの関節は反り返っていた。オムツをつけたままだった。死亡推定5歳。十分な食べ物を与えられず、暗闇に24時間閉じ込められて、それでも被告が帰ってくると「パパ」とすがったという。

 言葉の発達が遅れて「パパ、ママ」程度しかしゃべれず、ママが家出して2年以上たっていた。そしてその日、とうとうパパは帰ってこなかった。

 被告は公判で、「息子はあのアパートで、今でも私の帰りを待っている。パパの帰りをずっと待っている」と話した。

 横浜地裁は22日、懲役19年の厳しい実刑判決を言い渡した。

〈取材・文/フリーライター山嵜信明と『週刊女性』取材班〉