「こうしたほうがいいよ、っていう指導を受けたんです。それで変えてみたんですよ」

 黒木の答えを聞くと、堤の表情がみるみる曇っていく。何かを察したのか、黒木は先に帰ることに。送っていった溝端が戻ると、堤は不機嫌になった理由を話した。

「アイツは天才やから、自分が思う演技を貫いてほしかったな。そんな、上の言うこと全部聞かなくてエエのに。長いものに巻かれる女優になってほしくないんだよなぁ」

 以前、天才といわれる女優が演技指導を受けて妥協する姿を見ており、黒木に同じ道をたどってほしくないという。

「まあまあ。まだ若いから、言われたことをすぐに吸収できるのはいいことだよ」

 松雪はたしなめるが、溝端はやはり熱血発言。

「でも、真さんが言うこと、俺全部わかりますよ! 若手だと、どうしても演出家さん頼みになっちゃうんですけど、もっと自分の意思を持つことも大事やなって……」

 先輩に忠誠を示したのに、堤はつれない。

「お前はもっと頑張れ!」

 最後までいじられる溝端。

「演出内容が合ってないとかじゃなく、華ちゃんは天才やから、そのよさが薄まってしまう気がして。あの子はホントにスゴイから」

 黒木の才能を見込むからこそ、まっすぐに成長していってほしいのだ。

「ところで俺、何飲んでる?」

 いいこと言ったのに、やっぱり酔っ払いだった……。

「じゃあ、もう1杯それ!」

 と頼んだジントニックを飲むと、朝5時過ぎにようやく解散。実に11時間近く飲み続けたことに! 激アツの演技論を、堤はすべて覚えているのだろうか―。

バーを出たのは翌朝5時ごろ。タクシーを止めるべく車道へ出る
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