死んでも、悲しむ人や墓参りする人がいない

 また碑文谷さんによると、

「例えば夫婦世帯で暮らしていても、どちらか先に死んでしまっても、手元に置いている方は多い。お墓を持っていても、面倒だったり、お金がかかるから、このままでいいやという人たちもいます」

 実は葬儀業界、墓石業界では“葬儀も墓問題も、この先二極化する”と言われている。

 (財)日本消費者協会「第11回『葬儀についてのアンケート調査』」(2017年)によれば、葬儀費用の全国平均は196万円。一方で、墓石代の全国平均は163・7万円と言われている。死者が増えたとき、葬儀にも墓にもこれだけのお金をかけられる、ゆとりのある人たちがどれだけ増えるのだろうか。

「もう考え方自体を変えないとダメなんです。お葬式も墓も、残された人のためにあるわけです。でも、残される人のいない人たちが、どんどん増えるわけですから」(碑文谷さん)

 火葬ができないからでも、お墓が足りないからでもなく、むしろ本当の意味での、葬式を出せない、墓が持てないという「葬式難民」「墓難民」が増えていくのかもしれない。

多死社会では、亡くなったあと、豪華な花や祭壇を飾った告別式を望めるのは、ごく限られた人になっていく
多死社会では、亡くなったあと、豪華な花や祭壇を飾った告別式を望めるのは、ごく限られた人になっていく
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高齢者の方で、1週間もしゃべってないし、電話もかかってこないという方もいらっしゃる。当然その人たちが死んでも、墓参りしなきゃとか死んで悲しむ人はいない。

 そうなると、亡くなっても葬式はやらなくて、火葬だけですませてしまうとか、残ったお骨も捨てるとか、そういう人たちが増えるのは必然ですよね」(小谷さん)

 昨年亡くなった方で、90歳以上が38%。子どもももう高齢だから、子どもにだって頼れない時代が来ている。

「私たちは、死者は忘れられる存在だということを意識しないといけない。お墓があったって誰もお参りには行かない。そういう考え方を受け入れていかないと」(小谷さん)

 2006年に大ヒットした曲『千の風になって』には、「私のお墓の前で泣かないでください」というフレーズがある。けれど10年後、多死時代にして人口減に向かっている日本では、この歌詞さえ幻になりつつあるのだ。