黒塗りの報告書や形だけの調査も

 この日の会合には、「子どもが体罰といじめの被害にあった」という明子さん(仮名)も参加していた。

「息子が自殺をせずに助かったのは、その寸前に見つけたから。何をしているのか聞くと、“電車に飛び込もうと思った”と。説得して、やめさせました」

 これまでは明子さんひとりで学校と交渉してきた。示談もせず、「水に流して」と言われたが、母子とも納得せず悩んでいたところ、この連絡会を知った。

 賛同人には、いじめ自殺の遺族もいる。1994年11月、愛知県西尾市の中学2年生、大河内清輝くん(当時13)が自殺した。その父親・祥晴さんだ。清輝くんの遺書には、小学校6年生からいじめが始まったことや、お金をせびられるようになり《今日、もっていくお金がどうしてもみつからなかった》などと書かれていた。

 大河内さんはこの日の会合を欠席したが、会のメンバーは学校と交渉してきた経験者ばかり。「弁護士に相談してみてはどうか」「相談する際は項目を書き出して、時系列にするとよい」などと、明子さんはアドバスをもらっていた。

「日常的に話す人がいないのでスッキリしました。参考になりました」(明子さん)

 子どもがいじめにあい、不登校や自殺に直面したとき、保護者・遺族は学校とどう接したらよいかわからないことが多い。

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 ’15年9月、都立小山台高校の1年生、高橋博司くん(当時16=仮名)は、JR中央線大月駅(山梨県)で電車に飛び込み自殺した。東京都教委は’16年1月、『いじめ問題対策委員会』のもとに『調査部会』を設置した。博司くんへのいじめの有無、自殺の要因、学校対応などを調べている。

 博司くんの死後、母親の里美さん(仮名)がスマホのデータを復旧した。すると、《死んでしまいたい》などのツイッターの書き込みを見つけた。友人に相談をしているやりとりもあることから「いじめがあったのではないか?」と思い、設置を要望したのだ。

スマホから発掘されたデータには《死ね》の文字が
スマホから発掘されたデータには《死ね》の文字が
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 最近でも、スマホアプリの「メモ帳」の中に、「よし死ね」と書かれたデータを見つけた。保存された日時は亡くなる前日だ。「鑑定結果から、他人から送られてきた可能性が捨てきれません。保存されたのは自殺前日。もし、いじめられていたら、きっかけにもなったのではないでしょうか」(里美さん)

 ただ、調査部会は作られたが設置要綱はなく、権限やルールが明確ではない。委員の人選方法、進め方などは各地域で異なる。都の部会では、遺族推薦で4人の委員が入った。

 また、調査過程で、遺族や保護者に十分な情報提供がされない場合もある。「どんな情報があって、どんな議論になっているのかというプロセスも知りたい」と思った里美さんは、情報公開請求した。しかし調査部会が開催中で、「自由な議論を妨げるおそれ」を理由に非開示になった箇所も多い。その部分は真っ黒でいわゆる“のり弁状態”だ(記事冒頭の写真参照)。それでも里美さんは、

「報告書がどんな内容になったとしても、基礎的な文書などが残っていれば検証できます。保存してもらえるように要請しています」

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『「指導死」親の会』世話人を務める大貫隆志さんは、教師の指導後に息子を自殺で亡くした。現在はいじめの相談を受けたり、関連する裁判を傍聴している。いじめ調査委の委員も担う。

「法律ができたことは成果ですが、調査されないケースや、形だけの調査の場合もあります。なぜ重大事態との認識を持たないのか。きちんとやらないと再発防止になりません」

 同法では調査委員会について細かく規定されていないが、’17年3月、文科省がガイドラインを作り、調査のあり方を示した。

「ガイドラインは詳細に書かれています。遺族や保護者が調査委と“闘う”ツールが増えました。学校で組織的対応をして、また初期対応を強化することが必要です。まずは被害者を守ること。そして、加害者にも貧困や虐待という背景があることもあり、支援的な関わりも必要です」

<取材・文/渋井哲也>
ジャーナリスト。自殺、いじめなど若者の生きづらさを中心に取材。近著に『命を救えなかった―釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(三一書房)がある