厚生労働省によれば、昨年度に対応した児童虐待件数は、過去最多の12万2578件。前年度より1万9292件増えた。虐待死は前年度比で13人増の84人だった。厚労省で同調査が始まったのは1990年。その年、1101件だったことを考えると現在は120倍となっている。

 実際に虐待件数が増えているのか、虐待を通報する意識が高まったからなのか、はわからない。しかし、虐待の対応にあたる児童相談所の職員数は1000人程度しか増えていない。圧倒的な人手不足だ。

 32年間、児童相談所に勤務し、現在は『子どもの虹情報研修センター』のセンター長を務める川崎二三彦さんは、児童相談所の職員たちの苦労をこう代弁する。

「“虐待かも”という通報が児相に入れば、必ず対応しなければいけません。手遅れとなって子どもに被害が及べば責任を問われ、批判にさらされます。

 今は『189』に電話をすると、近くの児相につながるシステムが構築され、通報しやすくなっていますが、たった1人の子どもを助けることも簡単なことではありません

 例えば、「近所のどこかから子どものひどい泣き声がする」という通報があった場合、まずは子どもがどこの誰かを特定しなければいけない。それだけでも大変な作業だが、多くの親は虐待行為を否定し、「しつけだ」などと主張するため、虐待か否かを判断するのが難しい。

 さらに、児相職員が虐待の加害者である親から暴力を受けるケースも決して珍しくない。身の危険を防ぐため、警察官の援助を受けざるをえない事例も相当数にのぼるという。

「私も暴力を受けたことがあります。深刻な虐待で、命の危険さえある子どもを職権で保護したのですが、“おまえらにそんな権利があるのか!”“国家による誘拐だ!”と反発する保護者との面接は9時間に及びました。その途中で暴行を受け、眼鏡も吹っ飛びました」(川崎さん)