キャリアを積んでも初心は忘れない

 実は中国行きを決めた段階で、高倉さんに相談していたという中井。その際に“海外の映画を1本経験することは、国内の映画10本分の価値がある”とアドバイスされていたとか。

その作品に関して言えば、国内の映画30本分ぐらいの経験になりましたけどね(笑)。役者という以前に、人間としての経験値が上がったというか。生きることってどういうことだろう? という考えまでたどり着きましたから。日本に帰ってきたときに、水道をひねればキレイな水が出てきてくれるので、“すごい……”と感動して水をしばらく見てしまったぐらい。中国で4本映画をやらせてもらいましたが、いかに日本が恵まれた環境なのかを身をもって感じられたことも含め、よい経験でしたね」

 今回、王道のホームドラマに挑戦しているが、“正統派”を貫くことが自身のテーマでもあるようだ。

中井貴一 撮影/佐藤靖彦
中井貴一 撮影/佐藤靖彦
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「尊敬する小林桂樹さんに“アウトローが評価されやすい時代だけど、正統派でいてくれ”と言われたんです。だから正統派でいたいという思いは頑なかな。世の中で芸術家や自由業の人たちって多くても3割程度。残りの7割であるサラリーマンが日本を支えているからこそ、残り3割も活躍できるということを忘れちゃダメだと思うんです」

 わかりやすいヒーローや悪役が求められやすいドラマにおいて、つい陰になりがちな市井の人たち。

俳優でもアウトロー役のほうが目立つけど、正統派がいないと作品は成り立たないんです。もちろん役者としていろんな役を演じたい気持ちはあるけど、核となる信念はその言葉で学びましたね。今回の作品もアウトローとは真逆の正統派なホームドラマですけど、共感してもらえる作品になればいいなと演じています」

 数多くの賞を受賞し、国内外で活躍するキャリアを積んだ俳優となった今でも、初心を忘れない。

先日20代の記者に“夢を教えてください”って聞かれたんです(笑)。56歳になって20代に夢を聞かれるって普通ないから、とてもうれしかったですね。人間、いくつになっても夢って持ち続けていたいもの。特に役者という仕事は終わりがないものだから、70歳になっても夢を聞かれる存在でいたい。

 自分の生活や精神的なものを豊かにしていきたいし、そこに必要なものはどんどん取り入れたい。あとここからは恥をかいていこうかなって。恥をかくことが、挑戦につながると思うんです」

<出演情報>
新春ドラマスペシャル『娘の結婚』
1月8日(月・祝)夜8時~、テレビ東京ほか。出演/中井貴一、波瑠、満島真之介、光石研、奥貫薫、キムラ緑子、段田安則、原田美枝子ほか