100品のレシピブックも付属

 そこからは試行錯誤の連続だった。まず、鋳物にホーローを吹きつける技術を身につけるまでに1年。理想の密閉性を実現するまでには、さらに1年半を要した。

「何度も心が折れそうになりましたが、偶然できた成功作で無水調理の肉じゃがを食べたら、信じられないほど美味しかった。ニンジン嫌いだった兄が“美味しい、美味しい”と、わざわざニンジンを探して食べていました(笑)。そのとき“完成したら世界一の鍋になる”と確信したんです」

 そうして約3年をかけて誕生したのが、0.01mm以下の精度で蓋と本体が重なる鍋「バーミキュラ」だ。

 しかし、兄弟の挑戦はここで終わらない。

土方智晴さん◎愛知ドビー副社長。大学卒業後、トヨタ自動車で原価企画などに携わる。愛知ドビー入社後は、精密加工技術を習得。バーミキュラ全製品のコンセプト策定から開発までを主導

「鋳物ホーロー鍋の調理は、火加減にちょっとコツがいるんです。僕たちが世界最高だと思う味をお届けするには、最適な火加減もセットにする必要があると気づきました」

 次に開発したのは、バーミキュラ専用のポットヒーター。指先ひとつで、繊細な温度管理が自由自在となる。

「“はじめちょろちょろ中ぱっぱ”で知られるように、炊飯は温度管理が難しい調理の代表格。それすら楽にこなせるという意味でライスポットと名づけましたが、炊飯器を作ったつもりはないんです。これは、火加減まで提供する“進化した鍋”なんですよ」

 事実、ライスポットには全100品が掲載されたレシピブックが付属し、公式フェイスブックでも続々と新レシピが紹介されている。その内容は甘酒から茶碗蒸し、おでんまでさまざまだ。

「売れて終わりだとは思っていません。お客様が料理を作り、心から喜んでもらえてようやくゴールなんです」

 バーミキュラはオーナーズデスクを設けており、コンシェルジュが相談に乗ってくれる。「オススメのレシピは?」「こんなお野菜をもらったんだけど……」と毎日、電話の鳴りやむことはない。

 持てる技術を注ぎ込んだモノ、最適な火加減、そして購入後のサポートまでを含めてこそ、「これが世界最高の鍋」と胸を張れるのだ。