難曲を歌うためには肉を食べなきゃ!

 こうした奥の深いテーマとともに、このミュージカルを特別なものにしているのが楽曲のパワーだ。

ブロードウェイでこの作品を見たとき、“こんなにも力強く心を打つメロディーのミュージカルを書く人がいるんだ”と衝撃を受けました。特に、『時が来た』を聴いたときには身体全体に勇気がみなぎっていくような感覚を覚えましたね。その曲を自分が歌えることは本当に幸せです。でも簡単には歌えないんですよ!(笑) ワイルドホーンは、歌う人の声がいちばんいい音で張れるようにキーを変えてくれるんですが、なおかつ、すごい馬力で歌わないといけないように作るんです(笑)。ハードルが上がるんですよ」

石丸幹二 撮影/廣瀬靖士

 その難曲を歌いこなすための秘策も、ワイルドホーンさんに伝授された。

「彼が面白いことを言ってくれたんです。“僕が書いたミュージカルの曲を歌うなら、君たちアジアの草食人種は毎日、肉を食わなきゃダメだ”って。半分冗談なんですけど、“それくらいパワフルな歌い方を必要とするんだ、自分はそういうふうに書いているから”ということなんですね。肉を食べたからといってすぐに歌えるものでもないんですけど(笑)、日々の鍛錬は大事だとわかりました」

 今回は共演するキャストも大きくチェンジ。稽古(けいこ)場では新しい刺激にワクワクする日々だという。

「僕は音楽畑から出てきた人間ですので、声のアンサンブルにすごく興味があるんですね。だから今回も新しい声とどう響き合うか、お互いの声をどう際立たせるか、いろいろ考えるのはとても楽しい作業です。例えば、前回まで婚約者のエマ役だった笹本玲奈ちゃんが今回はルーシー役で。エマとは正反対の艶っぽくジューシーな声を聴かせてくれたときには“うわ、僕のエマはどこへ行っちゃったんだ”と思いましたけど(笑)、すごく刺激的でした。

 とにかくエネルギーが途切れないようにして、お客様に“ああ、よかった。また見に来たい”と思っていただけるような作品にしたいと思います」

<舞台情報>

『ジキル&ハイド』

 1886年にイギリスで出版されたスティーブンソンの怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』を原作に、脚本・作詞レスリー・ブリカッス、作曲フランク・ワイルドホーンでミュージカル化。1997年にブロードウェイで開幕し、大ヒットを記録した。原作にはないジキルの婚約者エマ、娼婦ルーシーというふたりの女性を登場させるなど、ドラマティックな作品に仕上がっている。3月3日~18日 東京国際フォーラム ホールC、3月24日・25日 愛知県芸術劇場 大ホール、3月30日・31日 梅田芸術劇場 メインホールで上演される。

<プロフィール>
いしまる・かんじ◎1965年生まれ、愛媛県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科在学中の’90年、劇団四季に入団。『オペラ座の怪人』ラウル子爵役でデビューし、劇団の看板俳優として活躍。’07年に退団後は『エリザベート』『スカーレット・ピンパーネル』などミュージカルやストレート・プレイ、コンサートに多数出演。2013年にTBSドラマ『半沢直樹』で浅野支店長役を演じ、テレビや映画界でも人気者に。

(取材・文/若林ゆり)