日馬富士の虜になった瞬間

 ところが2004年のある日、自宅で用事をしながらラジオで大相撲中継のテレビの音声だけを聞いていると、安馬という力士、後の日馬富士の稽古風景の様子が流れ始めた。

 その音に、声に、橋本さんはただならぬものを感じ、慌ててテレビのスイッチを入れて、食い入るように見つめた。

「高砂部屋の朝青龍のところで稽古する安馬の場面で、もう髪の毛はざんばらくしゃくしゃ。ふらふらで立ってるのもやっと。その安馬の顔をのぞき込みながら朝青龍がバーベルを渡して持たせると、安馬はただゆらゆら揺れてるだけなんです。

 限界をとっくに超えている。その様に惚(ほ)れて。私は子どもの頃から相撲の稽古風景をずっと見てきて、それがいかに大変か知ってましたが、彼は命がけ、言葉だけじゃなくて、本当に命がけでやっているんです」

 大相撲の稽古は見ているこちらが苦しくなってくるほど厳しいものだが、その中でも特に厳しい稽古を自らに課すことで知られた日馬富士。

身体を低く仕切るのが、日馬富士の個性だった

 橋本さんはそれに引きつけられてファンになり、稽古する姿もたくさん描き、今回もそのいくつかが収められている。

「今回、画文集に入れた120枚の絵は全て、日馬富士自身が選んでくれました。打ち合わせをしたときに『僕が全部選びます、やります』って言ってくれて。

 そう言いながら付せんを貼るような手のしぐさをされたから、そんなふうに選ぶんだなと待っていたら、選んだ絵にコメントまで付けてくれ、もちろんそれも画集に入れました。

 戦績も巻末に入れましたが、そこに『金星配給40個で歴代2位』という、横綱としては不名誉なことも書いてありますが、これは日馬富士自身が『そんなに強い横綱ではなかったことも伝えておきたかったから』と言って加えたものです。

 労を惜しまず誠実で丁寧、そして謙虚で正直な人です。画集は夢、稽古、仲間たちといった8つのテーマに分かれていますが、それも日馬富士が考えたものです」