(左から)『しくじり先生』出演中の吉村崇、若林正恭、澤部佑
 テレビを見ていて「ふと気になったこと」や「ずっと疑問に思っていたこと」ってありませんか──? そんな“視聴者のナゼ”に『世界の果てまでイッテQ!』など人気番組を多数担当する放送作家・鮫肌文殊がお答えします!

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「4月から『しくじり先生 俺みたいになるな!!』がレギュラー復活したことに驚いています。好きな番組なのでとてもうれしいのですが、1度終わった番組がまた始まるなんて聞いたことがないような……。 なぜ復活したのか教えてください!」(30代/自営業)

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 質問者さんも驚いているように、'17年9月をもって日曜プライムタイム枠にていったん終了した『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)がこの春から深夜枠(毎週月曜深夜0時20分〜)で見事復活しました。これはテレビ界の中でも非常に珍しいケースです。

 復活1回目の先生は安田大サーカスのクロちゃん。40歳を過ぎた今でも親から仕送りをもらい、努力なんて一切せず甘い汁だけを吸って芸能界を生き抜いていく最低の処世術を披露。

 クズ中のクズと言っても差し支えない人間性をさらけ出すその授業は爆笑の連続で「やっぱり、しくじり先生はこうでなくっちゃ!」とディープなファンに拍手喝采をもって迎えられる神回でした(すみません。その喜んでるディープなファンのひとりって、実は私のことなんですけど)

『しくじり先生』が復活を遂げたわけは、やはり“終わらせるにはあまりに惜しい”とテレビ局側が判断したからだと思われます。過去、'14年にギャラクシー賞10月度月間賞、'15年に放送文化基金賞テレビエンターテインメント番組部門・最優秀賞を受賞している企画性の高さはだてじゃない。事実、月曜ゴールデン枠から日曜プライム枠へ移動し、終了してからも特番で数回放送されています。実質的には終わっていなかったのです。

 深夜で評判になった番組がゴールデン枠レギュラーに進出! というケースがたまにありますが、成功するのは非常にレア。みなさんもご存じのようにゴールデンやプライムの枠はスポンサードする企業も超大手ばかり。

 当たり前のことですが今まで深夜では許されていたことがコンプライアンス的にNGなことが多くなります。おかげで鋭かったもともとの企画の切っ先が鈍って番組が面白くなくなる事例が多々。

 例えば『しくじり先生』で言うなら深夜復活1回目の先生、クロちゃんの超ゲスいエピソードをゴールデン枠で1時間放送できるでしょうか? 今のクロちゃんをもってしても二の足を踏むと思われます。「もっと万人受けする人選で!」とか「今、旬な人で!」とか偉い人に言われそう。そんなふうに別の要素が影響してしまうのが、ゴールデンみたいなメジャーな時間帯に進出した際の明らかなマイナス面。

『しくじり先生』にはまた元の土俵で伸び伸びやってほしいと願います。局の判断でゴールデンに進出、そのまま牙を抜かれ無念のまま消えていった過去の幾多の尖った番組のためにも。

「深夜からゴールデン進出、そして再び深夜への復帰」という『バラエティー界奇跡のUターン現象』の成功例を証明してほしい。

 ぶっちゃけ、海の物とも山の物ともつかぬ新コンテンツに賭けるより、深夜とは言え過去に実績のある名番組の復活のほうが視聴率を確実に獲得できると考えるテレビ局側の本音も見え隠れする今回の復活劇ではありますが、『しくじり先生』にはこれからも頑張っていただきたい。だって、質問者さんと一緒で私もこの素敵なバラエティー番組のファンなんだもん


<プロフィール>
鮫肌文殊(さめはだ・もんぢゅ)
放送作家。’65年神戸生まれ。古舘プロジェクト所属。『世界の果てまでイッテQ!』など担当。渋谷オルガンバー「輝く!日本のレコード大将」(毎月第2金曜日)新宿ロックカフェロフト「トーキョー歌謡界アワー」(奇数月開催)などでの和モノDJ、関西伝説のカルトパンクバンド・捕虜収容所のボーカリストなど音楽活動も数多い。