10キロ2300円の米だけでしのいだ1ヶ月

「炊き出し活動のジレンマは、プライドが邪魔してか、空腹でも来ない人がいること。また食べに来ても、その場で労働や生活の相談にはつながらず、多くの人が食べたらすぐに帰ってしまった」(森さん)

 子ども食堂の場合、一緒に食べて遊ぶことで子どもとの信頼関係を築き、自然とその子が抱える問題を知るようになる。すると、例えば塾に行けない子には無料学習塾を紹介する、学校関係者に働きかけ学校でのいじめを解決するなど、スタッフが問題解決に動くケースは少なくない。

「大人の場合、互いの信頼を構築するそのワンクッションがなかった。信頼関係もなく初めから“労働相談に来てください”のスタンスでは敷居が高い。必要なのは、まず自分の思いを吐露できる場所だったんです

 そこで考え出されたのが大人食堂だ。

 人目を気にしなくてもいい建物内で温かな食事をとり、スタッフと自由に話し、労働相談をしたいと思えば、そのまま別室で専門家と話す。

 このスタンスで、ユニオンとNPO法人『POSSE』とが共同で大人食堂をスタート。ちなみに、その財源は有志の寄付で賄われている。

 筆者の取材時、数人の利用者がスタッフと食事をしていたが、どの人も淡々と自身の抱える問題を話し、取材にも快く応じてくれた。

 57歳の男性Aさんは、今年に入ってから、建築業でのケガが労災と認められず失職した。以後、幾度の求職でも年齢のためか不採用続きだ。無職となってからは、10キロ2300円の安価な米でおにぎりだけを作り、それで1か月以上をしのいでいたという。

 誰とも話をすることがない生活で、おかずがない冷たい食事は心にもきつい。そんなときに見た大人食堂の貼り紙に「ご飯が食べられるなら」と立ち寄ってみると、その温かな雰囲気にAさんはすぐになじんだ。

「ここはいいね。温かい食事はうれしいし、ここのスタッフには何でも話せます。自分の悩みを人に話せたのは本当に久しぶりです」

 Aさんは「明日、介護職の面接に行きます。採用されるかはわかりませんが」と言い残して食堂をあとにした。もし就職が決まらないと生活保護も考えねばならず、そうなるとAさんはまた大人食堂を利用するかもしれない。