「大人食堂は実学です」

 今回の取材で忘れられないのは、この日、厨房で働いていた40代女性のBさんだ。

 Bさんは他県に住んでいたが、家庭ではDV的な扱いを受けていた。家族の借金返済の3分の2を背負わされ、そのため自身が借金を重ねる。その悪循環から逃れようと、今年のGW直前に誰も自分を知らない仙台へと逃避した。

 アパレル関連の非正規職に就いたBさんは、会社と5月20日までの1か月契約を結んだが、直後に会社から「10連休で仕事はない」と言われ愕然とする。Bさんの財布には1200円しかなかった。

 どうしよう。Bさんは助けを求め、福祉関連の団体にいくつも電話をした。そこで紹介されたのが大人食堂だった。

 当時、Bさんの家財道具は電気ケトルだけ。それで沸かしたお湯でつくるカップ麺のみが食事だった。

「だから大人食堂の食事は本当に温かかった。同時に私の今後の生活も相談に乗ってくれて本当に助かりました」

 Bさんの相談を受けたPOSSEの川久保尭弘さんは、まず「所持金が1200円しかないことに驚いた」。

「そして痛感したのは、そういう状況でも助けを求められる場所がなかったこと。とにかくまずは生活保護をとることで一致しました」

 川久保さんはBさんと役所に同行し、職員に状況を説明、はたしてBさんは実家に知られず無事に生活保護を受給することができたのだ。

 そのBさんは、大人食堂3回目の開催が決定すると、「今度は私が手伝いたい」と申し出た。川久保さんは理屈抜きで「感銘した」と振り返る。

 取材時、厨房には約20人のスタッフがいた。その約半数は大学生などの若者だ。参加動機はそれぞれだが、誰もが動員ではなく、自分の意志で参加していた。

スタッフの益子さん。大学でも社会問題のサークルに参加しているが「大人食堂は実学です」

 ひときわ自分の意見をもっていたのが大学2年生の益子実香さんだ。

「私は仙台で、性暴力の撲滅とそのための刑法改正を訴えるフラワーデモを始めました。でも、声をあげたら叩かれる。反貧困運動も同じです。だけど、おかしいことにはおかしいと声をあげてどこがおかしいんでしょう。大人食堂は世の中で起きている問題を生でとらえて関わる現場です。これに関わる私たち学生は無力じゃないと思っています」

 森さんは「これだけの若い力が集まるのは本当に心強い。同時に、弁護士や労組の相談員が常時待機するこの体制は意義がある。できるだけ多くの大人と関わるため大人食堂は今後も毎月開催します」と述べた。実際、第5回の大人食堂は8月29日に開催され、この日も5人がリピーターの8人が訪れたという。


 大人食堂が今後、各地に広がることを期待したい。

取材・文/樫田秀樹 ジャーナリスト。'89年より執筆活動を開始。国内外の社会問題についての取材を精力的に続けている。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)が第58回日本ジャーナリスト会議賞を受賞