『百の夜は跳ねて』が2度目の芥川賞候補作となりながら、惜しくも受賞を逃した古市憲寿さん。自身のツイッターでは「ちーーーん。」「まただめだった!!!」と残念がりました。今回の作品は、ガラス清掃をしている若者が謎の老女と出会い、緩やかな変化を体験する青春小説かつ都市小説です。

戦略で1冊書けるほど暇じゃない

 普段、フジテレビ系『とくダネ!』などの異色コメンテーターとして、たびたび炎上もしている古市さん。小説には自身が反映されている部分もあるのでしょうか?

「自分をどのぐらい出すかっていうのは、『平成くん、さようなら』のときも今回も迷ったんですけど、自分が自然に出ちゃう部分もあります。でも、基本的には作中に出てくるキャラクターの心情に寄り添って書こうかなと。だから自分が出ている部分は意図せずして出た、みたいなところが多いと思います」

 主人公は就活が全滅した翔太。彼が目にするのは、タワマンの中の富裕な住人たち。格差社会や非正規雇用という今日的なトピックが見え隠れします。それゆえ、芥川賞の選考委員からは、「いろいろな素材を集めてパッチワークのようにはめ込めば小説になる、という手つきが見え隠れする」と厳しい意見も出たそうです。はたして、その真相は?

「いや、逆に全然狙ってなくて。本当に『百の夜は跳ねて』は1行目から順番に書いていったんです。プロットもなくて。もちろん後から修正しましたけど、基本的には漠然としたイメージだけで書き進めていきました。前作と違う話を書こうっていうのはもちろんありましたけど、せっかく新しい話を書くんだから真逆の話を書こう、ぐらい。正確には、真逆っていうか違うアングルから書こう、ですかね。

 それ以外は何も思っていない。逆に戦略で1冊書けるほど暇じゃないっていうか、そんなに人生無駄にしたくないので(笑)。

 もちろん賞のために書いてるんじゃなくて自分のために書きたいことを書きました。作中に登場する写真と同じで、ともすれば消えてしまう人物や出来事を残したいという思いが強かったです。特に僕は専業作家ではありません。結果として評価されたらうれしいですけど、それよりも読んでくれる人がいるということのほうが心強く思います」