「人間をバラしたことがある人はわかると思う」

 白石が殺害したのは男女9人だが、実際、会ったのは13人だったという。つまり、4人は殺害しなかった。何か「基準」のようなものがあるのだろうか。

「4人のうち1人は男性。お金もなさそうだった。もう1人は、事件を起こした8月から9月まで付き合っていました。部屋にクーラーボックスがあったのを見て逃げ出した女性もいました。残りの1人は10日間だけですが、一緒に住んでいました」

 白石は、ネットで知り合った人とは恋愛関係になっていないと最初の面会で言っていた。矛盾する証言ではないかと考えたが、もしかすると、付き合っていただけ、一緒に住んでいただけで。恋愛とは別なのか。ここはあとで気がついた点で、短い面会時間で確認できなかったことを後悔している。

 事件後、白石は警察に見つからないようにさまざまな工夫をしていたという。これまでの殺人事件で犯人が逮捕されたタイミングを調べあげ、一定の知識を身につけていた。

「それぞれの事件発覚に該当しない方法を実行しようと思ったんです。携帯電話は長い間、放置しないと警察は位置情報を特定できない。このことは、前回に逮捕されたとき、刑事に教わったんですよ」

送検時、両手で顔を隠し最後まで顔を見せなかった白石容疑者
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 白石は事件前、ソープランドへの斡旋の疑いで逮捕、起訴され、執行猶予判決が下された過去がある。そのときの取り調べて、犯罪のヒントを得てしまったのだ。警察の事情聴取で“ヒント”を得ることはよくある。自殺未遂者を救済したあとで、医師や警察官が、リアルな自殺方法を教えてしまうこともあるくらいだ。

 この、座間9遺体事件の取材で「男に猟奇的な面があり、バラバラにしたあと、食べたのではないか」という情報を耳にした。もしこれが事実であれば、人肉を食べた事件として、さらに異常性が増す。そして衝撃度も変わる。不謹慎ながらも、あえて、白石にその点を問いただした。するとこんな答えが返ってきた。

 「食べていないですよ」

 そして、笑いながら、こうも言った。

「(あなたは)人を殺したことないでしょ。人間をバラしたことがある人はわかると思うが、人は臭いです。食べる気にはならないです。食欲がわくにおいではないです」

 事件が発覚して10月末で2年になる。

 SNSで知り合い、自殺願望の女性を殺害するという類似の事件は、今年の9月にも東京・池袋で起きたばかりだ。しかし多くの人間からすれば、すでに終わった事件で、記憶から忘れ去られた事件でもある。日常で、この事件について話をする機会は、さらになくなってきているのが現実だ。

 最後の質問として、自分の家族や被害者遺族に何か言うことはないかと聞いた。

「家族に対しては、『ごめんなさい』かな。いや、違うな。『もう忘れてください』かな。もう会うこともないだろうし。被害者遺族にも忘れてください、ですね」

 事件を記憶し、この事件から得られる教訓は何か。個人レベルでも、家族レベルでも、地域や職場レベルでも、それぞれの立場で何ができるのかは考えてほしい。


渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)ほか著書多数。

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